地域自治会の「バランガイ」の名には、「ひとつの舟」という意味がある

 また、そうした各家庭の子育てを包み込む地域の状況を見てみると、フィリピンに特徴的な地域自治組織である「バランガイ」がある。この「バランガイ」の元の意味は「帆船」だが、フィリピンの人々にその意味を尋ねると「ひとつの舟」だという共同体を意識した答えが返ってくる。

 日本でいうと町内会にあたる規模のものだが、町内の比較的立派なバランガイ専用の建物の中には常駐の係員がいて、例えば住民票にあたる「バランガイ証明書」の発行などを行う窓口や、地域の保安官のような存在の「バランガイ・ポリス」の駐在所、紛争等の解決のための調停係などがある。また、地域の保健の相談や簡単な治療を行う「メディカル・センター」もある。その管理系統は長であるキャプテンの下、小さいとはいえ議会も組織されており、あたかも司法・行政・立法の三権がそろった極少の国家のような趣もある。

 このバランガイの子育て・保育に関する役割は小さくなく、家庭内外の困ったことがあるとポリスや調停係が発動し、家庭の孤立化を防ぐ役割を担っている。また、子どもの法定予防注射(ポリオ、三種混合等)などは上記のメディカル・センターで行えば自己負担なしの無料で受けることができる。これはマニラに限らずフィリピン全土で同じである。熱が出た、歯が痛いなどの初期症状や軽症にもすぐに対応してくれるような大きな助けとなっている。バランガイ制度は住民自らの活動への参加とサービスの実践を通して住民の共同体意識を強め、各家庭における保育のバック・ボーンとなっている。

マニラ、マカティ市のバランガイ・リザールのバランガイ・ホール。1階がメディカル・センターになっている。左に見える「フィルヘルス」とは、フィリピンの健康保険の名称。
マニラ、マカティ市のバランガイ・リザールのバランガイ・ホール。1階がメディカル・センターになっている。左に見える「フィルヘルス」とは、フィリピンの健康保険の名称。