徹夜ができないのなんて当たりまえ。打ち身やちょっとした擦り傷なんかが癒えるまでの時間が倍以上になったのも当たりまえ。もちろん、顔のみならず、肉と皮膚のあるところすべてにおいて、たるみ、しわ、なんていう変化がでてきて、これはもうどうしようもないというか、最近では「まあ、いいか」みたいな感じになってきた。

体重も、出産前から6キロ太ったまま。このプラス6キロ、しばらくのあいだは「本当の自分」の数字じゃないというか、非常事態の余韻における暫定的な目安、くらいに思っていたけれど、もう、そうではなくなった。出産から4年以上経っても戻らないので、これが「本当の自分」になってしまったのだ。けれど、体重にまつわるいちばんの変化は「6キロ太っても、わりに平気でいられる」自分になったことだった。だんだん、確実に、そういうのがどうでもよくなっているのが、本当によくわかる。 

固有名詞が出てこない、夫の電話番号が覚えられない!

 そして容貌や体重よりも、わたしの仕事的にいちばん堪えるのが、記憶力の低下である。

 もう、本当に何も覚えていられないのである。読んだはしから本の内容を忘れるし、固有名詞が出てこない(本当に出てこない)。たとえば打ち合わせとか取材なんかで、初めてお会いした人に名刺をいただく。会話のなかでお名前を呼ぶこともあるかもしれないから、ちゃんと名前を記憶しようと名刺に印字された名前を凝視する。よし、**さん。覚えた。名刺をバッグにしまい、よろしくお願いしまーすと頭を下げて着席したら、もう忘れてしまっているのだ。

 初めて会う人ならまあ仕方ないかもしれないけれど、知り合って何十年も経った人の名前が出てこないことも増えてきた。思いだせないものをそのままにしておくと、脳のその部分が死滅してしまうという喩え話(それにしてもざっくりしすぎだよ)が刷り込まれているのでこれまでは必死に思いだそうと焦ったりもしたけれど、最近はそういうのも疲れるので、「まあ、そのうち思いだすか」とか「名前とか、べつにいっか」、みたいな感じで、どんどん通り過ぎるというか、鈍くなっているのである。

 ほかに、何十回きいても、夫の携帯電話の番号が覚えられない。かろうじて昨晩食べたもののことは思いだそうと思えば思いだせるけれど、たとえば、先月の生理開始日っていつだったかなんて、完全に思いだせなくなってる。もう、「現在」の前後24時間くらいの範囲で生きているといってもいいくらいのあんばいなのだ。

 あとは、やっぱり体のことだ。