「親子そろってラーメンが好きだ。ラーメン屋の風情も好きだ。ラーメンほど作り手の個性が出る食べ物はないと思う。麺とスープと具というシンプルな構成なのに、一杯の丼の中には無限の宇宙がある」。そんなラーメンに魅せられた父・小栗雅裕さんと子のラーメン談議、寒い季節に体も心も温まる一杯をどうぞ!

ラーメン界のラスボス「二郎」に挑む兄弟

「二郎」のラーメンに苦戦中の兄弟(筆/漫画家・小栗千隼)。左は受験生真っただ中の弟サクヤ、右はコミックでの連載を目指して日々研さんの兄、小栗千隼、24歳
「二郎」のラーメンに苦戦中の兄弟(筆/漫画家・小栗千隼)。左は受験生真っただ中の弟サクヤ、右はコミックでの連載を目指して日々研さんの兄、小栗千隼、24歳

 「父さん、オレ、ジロリアンにはなれないよ」。高校生の次男が「ラーメン二郎」に初参戦した後の感想だ。

 思い起こせば10年前、同じ仙川の「二郎」で長男はハデに討ち死にした。ラーメン大好き中学生を自認していた長男、自信満々で大盛りを注文。列の中から「お兄ちゃん、多いよ」という声がかかり、「大丈夫です」と答えてカウンターについたが、前に置かれた丼を見て、彼が息をのんだのが分かった。

 丼からはみ出さんばかりの麺の塊、スープなんて見えません。その上にげんこつのような煮豚がドカン、ドカンと2個、さらにゆでキャベツ、もやしの山。丼の縁から20センチ以上盛り上がっている。全人未踏の岩壁に無謀にもハーケンを打ち込む初心者クライマーのように麺の塊にがむしゃらに箸を入れるも、いっこうに減る気配がない。というか、むしろ増えている! 麺がスープを吸って膨らんでいるのだ。すでに食べ終わった私が席を立つころには、もう半分泣きながら食べていた。

 「己を知らない自分の未熟さに腹が立ったのと、ラーメンを残す罪悪感にいたたまれなかったよね」と振り返る。そんなエピソードを何度か聞かされていた次男は慎重に普通盛りを注文したが、途中で「父さん、麺少し食べてくんない?」と丼を差し出してきた。そして、なんとか食べ終わった感想が冒頭の一言。

 「ラーメン二郎」に魅せられて、足しげく通う愛好家をジロリアンと呼ぶが、そんな不思議な魅力を持ったラーメン店が地元にあるのはラーメン好きとしては誇らしい気がしていた。しかも長男によれば、ディープな「二郎」の中でも最深部に位置するのが仙川店らしい。ならば、兄弟そろって負けても仕方がない、役者が違うのだ。

 ちなみに私は10年前も今回も完食。「父さん結構すごいんじゃね」と見直されました。

かみ締めるとうまい麺だが、かみ締めてるヒマがないのだ。写真では分かりづらいが、丼のサイズも大きい
かみ締めるとうまい麺だが、かみ締めてるヒマがないのだ。写真では分かりづらいが、丼のサイズも大きい

左/黄色地に黒文字の「二郎」の看板は全店に共通。深夜にかかわらずのこの行列を見よ。右/はっきり書いてくれてありがとうという感じです。でも、表からのぞいただけで親子連れは敬遠するだろう。うちの次男もそうですが「二郎」は高校生デビューが正しい
左/黄色地に黒文字の「二郎」の看板は全店に共通。深夜にかかわらずのこの行列を見よ。右/はっきり書いてくれてありがとうという感じです。でも、表からのぞいただけで親子連れは敬遠するだろう。うちの次男もそうですが「二郎」は高校生デビューが正しい