250年前につくられた音楽が持つ価値の意味が分かると、さらに面白くなる

―― ものすごく、いいお話ですね。そういう瞬間に出合えた子どもは幸せですね! 話は変わりまして、小学生が初めて出合うコンサートとして、佐渡さんがおすすめのプログラムがあれば教えてください。

佐渡 僕が首席指揮者をしている「シエナ・ウインド・オーケストラ」は面白いですよ(今年は12月14~22日に全国7カ所で開催)。弦楽器なしの吹奏楽のオーケストラですが、最高峰のプロが“学園祭ノリ”で面白いことをやります。

 それと、兵庫の県立芸術文化センター(西宮市。佐渡さんが芸術監督を務める)では、毎年夏にオペラをプロデュースしています。今年で11年目で、これもおすすめです。この7月はシェイクスピアを題材にイギリスの作曲家ブリテンが作った『夏の夜の夢』というオペラを手掛けました。3カ月前から準備を始め、ワンコイン・プレコンサート(チケット代500円)を行ったり、公開リハーサルをしたり。毎回観客の作品への理解を深めるために専門家をお招きして、様々なレクチャーをするんです。

 例えば、シェイクスピアがどういう作家だったのか、ブリテンがどういう作曲家だったかに始まり、衣装家は時代背景を考えながら、どういう苦労をして衣装を作ったんだろうとか、舞台装置のライト効果は何を表現するためにあるんだろうとか……。

 また、モーツァルトの『魔笛』を知るために、フルートではなく縦笛をお客さんに持ってきてもらって全員で大合奏したり、牛若丸やへびつかいや『ハーメルンの笛吹き男』のエピソードを紹介したり。

 絵画もそうですが、100年、200年と続いてきたものが今も残っていて、それがすごい価値を持っているということは誰もが知っています。でも、何でそれが価値があるとされているのかが分かったときにはもっと面白くなります。演奏会の曲もまさにそうですね。この音が250年前につくられたから素晴らしいのではなく、「今ここ」で音が鳴っていることがまず素晴らしいのです。そして、その曲が存在するためにはその背景にどんなことがあったのか想像することも大切で、それが分かると、ますます面白くなっていきます。小学生以上であれば、誰でもプレコンサートや公開リハーサルに参加できますからぜひ来てください。