楽器との出合いは縁としか言いようがないんですよ

佐渡 楽器との出合いも、やはり縁ですよね。以前滋賀県の守山市にある中学校の吹奏楽部をモデルバンドに公開の吹奏楽クリニックを実施したのですが、そのときの忘れられないエピソードがあるんです。

 5分くらいの曲を一小節ごとに止めてはアドバイスすることの繰り返し。かれこれ1時間ぐらい指導してなんとか上手に演奏できるようになった後で、質問コーナーがありまして。「“世界の佐渡さん”に質問がある人、手を挙げてくださ-い!」と主催者だけが異様にテンションが高かったんですが、誰一人として手を挙げず、会場はしーんと静まりかえっていました。見かねた主催者が、今にも怒りだしそうになったそのとき、チューバ担当の女の子が手を挙げたんです。体格の大きな子でしたが、思いっきりため口でこう切り出した。

 「あんなー、うちなー。ほんまはトランペットやりたかったんよー」

 もはや質問じゃないんです(笑)。

 「せやけどなー。だーれーもチューバふく人、いーひんから、しかたなくチューバやってんやんかあ。せやけどなー。3年間チューバ吹いてきて、今日初めてチューバ吹いてよかったと思ったわー」って。それを聞いて、僕、めちゃくちゃ感動したんです。

 何が言いたいかというと、たとえ希望していた楽器に出合えなくても、初めは嫌だなと思ってた楽器でも、そういう瞬間に出合える子どももいるのですから、やっぱり縁としか言いようがないんですよ。