ウィッグが必要か、子どもの意思を尊重してほしい

 へアドネーションの活動をする中で、渡辺さんはドナーにもドニーにも色々な思いがあることを日々感じています。また、ボランティアの概念についても考えさせられることが多いそうです。

 例えば、髪を寄付するドナーは、完全にボランティアになります。ドナーの毛髪と思いを受け取り、賛同美容院の美容師さんに協力してもらいながら、ウィッグは完成しますが、人から言われたから寄付するのではなく、自分で心から納得してアクションを起こし、毛髪を寄付してほしいそうです。長い髪をわざわざ切って寄付することは不要で、ロングヘアの人が切りたくなったときに切って寄付をする流れがいい。間違っても、現状長い人が無理に切って寄付するのはボランティア精神ではないと、渡辺さんは話します。

 ボランティアの意識がないドナーから、髪を切って寄付したのにお礼もないと高圧的な態度を取られたり、ボランティア証明を出してほしいと言われてがっかりしたり、ドナーの対応に日々一喜一憂することも多いとか。毛髪の寄付にとても感謝しながらも、日本はまだまだ本当の意味のボランティア精神がないと感じることも多いそうです。

 また渡辺さんは、採寸などでドニーの気持ちにも触れる機会が多くあります。

 前述の秋帆ちゃんやご家族のように、ウィッグを心待ちにして、本人も家族も心から喜んでくれる方がほとんどですが、たくさんの子ども達に会う中で、ウィッグを必要としているのは、この子どもではなく家族ではないかと首をかしげたくなることもあるようです。病気で髪の毛がないと人目が気になる、他の子と同じ生活が送れない、いじめられるのでは……など親が偏見を持ってしまい、本人の気持ちを聞かずに、先にウィッグを作ることを決めてしまうことがあるようです。親はきっと子どもを守るためにやっているのでしょう。しかし、子どもはどうでしょうか。

 子どもは親を見ています。親がウィッグをかぶってほしいと思っていたら、雰囲気で感じ取り、ウィッグをかぶって喜ぶことを演じるかもしれません。しかしそれは、頭髪に問題を持つ子どもにとって、自分を否定されることになっているかもしれません。そのことで子どもの柔らかい心が傷ついている可能性もあるのです。知らずに傷つけているのは一番身近な人かもしれない、と警鐘を鳴らします。

 「子どもさんと向き合って、ウィッグが本当に必要か、子どもの意思を尊重してほしい」と渡辺さんは話します。

 本当に必要としていた子どもは、世界に一つだけの自分の「Onewig」を受け取ったとき、本当の笑顔を見せてくれるそうです。それは長い間、大人の中で我慢して作り笑いしていた顔とは全然違う、自然で本当の笑顔! そんな笑顔を見るのが一番うれしいそうです。