根っからの「作家」J.K.ローリングが初めて脚本から手掛けた映画

ヘイマン 『ハリー・ポッター』の映画シリーズが終わって、確か1~2年経ったころ、私は再びあの“魔法の世界”に戻ろうと考えました。そして、当時、まだ出版前だった『ハリー・ポッター』シリーズの新刊を携えてプロデューサーのライオネル・ウィグラムを訪ねたのです。

 ライオネルはとてもクリエーティブな人で、後に『ファンタスティック・ビースト』の主人公となるニュート・スキャマンダーのフェイク・ドキュメンタリーを作ろうと考えました。世界中を回って、ニュートが魔法動物を探して助けようとする設定で、私はそのアイデアをジョー(J.K.ローリングの愛称)に話しました。すると彼女は「まあ、すごい不思議ね! 私もニュートのことを考えていたのよ。私にもすごく良いストーリーのアイデアがたくさんあるの」と言ったんです。

 ジョーはこの仕事をしなくても、ほかに本をいっぱい書いているし、既にお金もたくさんあるし、チャリティー活動もこなしていて、充実した人生を送っています。この新しい映画を製作するプロジェクトに参加する必要は、ある意味でなかったかもしれない。しかし、彼女は根っからの「作家」なんですね。「この物語を自分の手で書き記したい」という意欲が一気に湧いてきたようです。ジョーのニュートに関する話は実に素晴らしく、彼女は「この映画の脚本も担当したい」と言ってくれました。それを聞いて、僕はとてもワクワクしました。

 でも、これまでジョーは脚本を書いたことはなかった。その点については私も最初は少し不安でした。偉大な小説家が優れた脚本家だとは限りませんから。そこで彼女をサポートするチームを集めました。これまで『ハリー・ポッター』の脚本を手掛けてきたスティーブ・クローブス、ライオネル、僕、そして監督のデイビッド・イェーツです。デイビッドは魔法の世界をよく分かっています。彼は優しい人ですが、とても意思が強く、この仕事に対してものすごく熱心。みんなの良いところを引き出してくれる人です。

 ジョーから脚本の草稿が届き、ドキドキしながらページをめくりました。すぐに「これは大丈夫だ」と確信しましたよ。何というかまるで「家に帰ってきたような」気持ちになった、という感覚でしょうか。ジョーの思いが脚本の端々に言葉となってすべてに表現されていたからです。でも、初めて脚本を書いた人の草稿だったためか、少し軽めな印象も否めませんでした。そこで「もう少し深みが欲しい」と、ジョーに話しました。その後、彼女が書き直してくれた脚本は、今度はものすご~くダークだったんです(笑)。

 ジョーはとても謙虚で、彼女にとって何が大事なのか、そしてファンにとって何が大事なのかを分かっている人です。彼女は様々なアイデアを持っている一方で、それが映画にふさわしくないと分かれば、そのアイデアを潔く捨てることもできます。今回、脚本を書きながら、ジョーはたくさんのことを学んだと思います。

 実は、今回日本で公開された新作に続くシリーズ2作目の脚本の草稿がちょうどジョーから届いたところなのですが、脚本家としてのレベルが非常に高くなっていることが分かります。彼女はアイデアが豊富なので、例えばこちらが脚本の全体の構造を「数ページでまとめてほしい」と依頼すると、2日で102ページも書いてくる!(笑)。ジョーは本当にすごいんです。頭の中からアイデアがあふれ出すんですね。

 最終的に1作目の脚本は1年半くらいかけて完成させましたが、撮影中に手を加えることもありました。ちょっとずつ修正しながら進めていきました。

左からデイビッド・ヘイマンさん、J.K.ローリングさん、デイビッド・イェーツ監督
左からデイビッド・ヘイマンさん、J.K.ローリングさん、デイビッド・イェーツ監督