子育て世代に起こりやすいトラブルの実例とその対処法を、弁護士法人・響の徳原聖雨弁護士に伺う人気企画。第7回は、ご近所トラブル。犬の鳴き声がうるさいとのクレーム、隣家の火事がわが家に延焼したら? など身近な困り事に、弁護士さんが解決法をアドバイスしてくれました。

 CASE1 犬の鳴き声対策をしているので、訴えられる心配はないはず!?

Q. 自宅で犬を飼っています。うちの犬はよく吠えるのでご近所のことを考えて防音設備を付けました。犬が吠えるのは動物として当たり前だし、こちらとしては防音設備というできる限りの対策をしているので、近所に文句を言われても責任はないですよね?

A. 今回のご相談、防音設備の取り付け前後で考えてみましょう。防音設備を取り付ける前から犬がよく吠えていたとすれば、その間、鳴き声が騒音とまでいえるかどうかは別として、ご近所の方が我慢していたかもしれません。さらにその鳴き声を原因として、不眠症など体調を崩した場合は飼い主であるあなたに損害賠償請求をされる可能性があります。

 もちろん、防音設備を取り付けたのであれば状況は改善されるとは思います。しかし、防音設備を付けたとしてもその防音が十分でなかった場合や、取り付け前のことを理由に損害賠償請求される可能性は残ります。実際、防音設備取り付け前のことを理由に、損害賠償請求が認められたケースもあります。

 閑静な住宅地で犬を4匹飼育していた飼い主に対し、犬が夜間に連日断続的に鳴き続けたため、飼い主は防音装置を付けたが、向かいの共同住宅の持主および居住者が1098万円の損害賠償を請求したというものです。

 これに対し裁判所は、被害の状況は近隣者の受忍限度を超えていると認定しました。受忍限度とは、社会通念上、我慢できる範囲のことです。さらに、飼い主の義務について住宅地で飼育する以上、飼犬に愛情をもって接し、十分なしつけをし、場合によっては専門家に訓練を依頼すべきであるとし、被害者にはそれぞれ30万円の損害賠償(慰謝料)を認めたのです。共同住宅の所有者には、犬の鳴き声が原因で賃貸借契約を解除されたことによる損害として、別途32万円の賠償を認めました。

 この判決では損害賠償額を算定する際に、犬の鳴き声というよりも「ご近所付き合いの希薄さが問題の根本のひとつである」ということにも言及しています。人間関係の希薄さが損害賠償額へ影響をしているという点で、非常に興味深いケースといえます。