最初の育休で経験した痛手が、意識を変えた

 摂津さんの最初の産育休は、トータルで7カ月。担当していたエリアは別の担当者に任せ、規定通りに休みを取った。

 「育休中も、月に1回の情報共有の機会は設定してもらっていました。電話で30分ほど、マネジャーと話をするという形です。会社や事業部の方針と現状をざっくり共有するくらいで、担当エリアの細かい状況は全く分からない状態でした」(摂津さん)

 一方、摂津さんのエリアを任された社員は、業務量の多さに疲弊していた。いずれ摂津さんが戻ったら担当を摂津さんに戻すことが前提だったため、仮担当の立場では営業の仕方も難しい。結果、自然と積極的な営業手法を取らなくなり、後手に回ることが増えていく。

 こうして復帰した摂津さんを待っていたのは、一人だけ情報が遮断された世界にいたことによる感覚のずれと、売り上げの多くを占めていた取引先を他社に奪われてしまったという現実だった。

 「しっかり把握していたはずの医師の興味が、日進月歩の医療現場で移り変わっていたことによる焦燥感もありましたが、大切な取引先を失ったことが最大の痛恨事でした。メーンの製品を一番多く販売している取引先だったので、翌年の売り上げに大きな影響が出ることは必至です。全力を尽くして戦った結果ではなく、休んでいる間に他社に奪われたのだということが何よりも悔しかったですね」(摂津さん)

 ここから驚異の挽回に出た摂津さんは、失った取引先の信頼を2年で取り戻し、関係を復活させる。「気持ちを持っていくのが大変だった」という苦しい時期を乗り越えたとき、頭に浮かんだのは「次に子どもを産むときはどうするか」だった。

 「最初の育休から復帰した後のつらさを思うと、次は育休を取らずにすぐさま仕事に戻りたいとさえ思いました。それが難しいなら、せめて育休の取り方を変えよう。そう思ったんです」(摂津さん)

 2人目の妊娠が分かったとき、摂津さんは迷わず中日本のチームメンバーである佐々木さんと上司である伊藤さんに話をした。

 「前回の経験から、代理担当者は個別対応をしてくれても、長期的な視点からの提案や判断は難しいと分かった。そこで今回は、育休中も代理の営業担当は立てず、訪問以外の業務に関して情報を共有するようにしたい」と。

*下編に続きます

(ライター/藤巻 史、撮影/稲垣純也、イメージカット撮影/鈴木愛子)