「わが子の能力を伸ばしたい」「わが子に幸せな人生を送ってほしい」。そう願うパパ・ママにとって、子どもが小さいうちから親ができる早期教育は関心の高いところでしょう。ただ、世の中には様々な教育法があり、「○歳までに△△をしておいたほうがいい」などといった情報や意見を耳にし、迷うことも多々あります。何をすれば子どものためになるのか、ならないのか。今回の特集では脳科学や発達心理学、モンテッソーリ教育などの専門家に、早くから何かを「教える」よりも、根本的な「意欲」や「やり抜く力」を伸ばすことの重要性について話を伺いました。
 今回は小さいときから取り入れたほうがよい早期教育について専門家を取材。「子どもを野原に放つとよいです」。国のプロジェクト「脳科学と教育」の研究統括も務めた小泉英明さん(日立製作所役員待遇フェロー)はそう断言します。「子どもは自然の中で遊べ」とはずっと言われてきたことですが、この“古くて新しい”言葉を簡単に聞き流してはいけない本当の理由を、脳科学の側面から話してもらいました

【“教えない”早期教育特集】
第1回 詰め込み型早期教育の「これは間違っている!」
第2回 知育より「意欲を鍛える」 実践したい5つのポイント  ←今回はココ
第3回 「9歳の壁」も乗り越えられる 習慣と部屋づくり
第4回 バイリンガル目指すなら幼少期から英語を習うべき?
第5回 そろばん・公文で自ら勉強する子になるのはなぜ?

日本人生徒の「科学への意欲」は57カ国で最低水準

日立製作所役員待遇フェローの小泉英明さん
日立製作所役員待遇フェローの小泉英明さん

 ここに衝撃的なデータがあります。2006年に経済協力開発機構(OECD)が57カ国の15歳男女40万人以上へ実施したPISA調査の結果です。

 「科学を学んでいるときは楽しい」「科学を学ぶことに興味がある」「科学の本を読むのは好きだ」などの問いに「その通り」「そうだと思う」と答えた日本の生徒は、他国に比べると断然少なく、参加57カ国中でそれぞれ54位、52位、57位。つまり、日本の子ども達の「科学への意欲」は世界でも最低水準だったことが分かったのです。

 「日本では学力調査の結果ばかりが取り上げられますが、実はこちらの結果のほうが重要です。さらに詳しい調査の結果があって、それによると小学校低学年までは意欲についても問題ないのですが、高学年になればなるほど意欲は落ち、高校生くらいで最低水準にまで落ちるのです」。小泉英明さんはそう憂えます。

 原因の一つに考えられるのは、詰め込み教育や暗記偏重の受験システム。「残念ながらマニュアル人間が増えてしまっている可能性があります。近年ノーベル賞では日本人受賞者が増えているようにも見えますが、上記の結果を見る限り、これからは難しくなるのではといわれています」

 小泉さんによれば、「どの分野でも、よい仕事を成し遂げている人は間違いなく情熱や意欲があります。実は知育よりも、子どもの意欲を伸ばすことがはるかに重要。意欲があれば、あとは放っておいても自分でどんどん勉強していきます。『意欲を鍛える』ことこそが幼児教育の原点です

 「脳の仕組みが分かれば、今の教育の改善するべき点も見えてきます」と小泉さんは話します。ではどうすれば、子どもの持つ「意欲」「やる気」を引き出し、鍛えることができるのでしょう。

<次ページからの内容>

・ポイント① 幼いうちは脳の「中心部」を育てる
・ポイント② 「意識下」を鍛える
・ポイント③ 子どもを野原に放て
・ポイント④ できるだけ「本物」に触れさせる
・ポイント⑤ 他人の幸せも喜びと感じられる脳に