大人が何でも教える早期教育は間違い?

駒沢女子短期大学名誉教授の天野珠子さん
駒沢女子短期大学名誉教授の天野珠子さん

 「植物でも、早く伸ばしたいからと水をやり過ぎると根腐れを起こすし、無理に上から引っ張ると、傷ついたり切れたりしますよね

 駒沢女子短期大学名誉教授の天野珠子さんは、詰め込み型の早期教育を、そう批判します。子どもの自ら伸びる力に着目した教育法を実施する「モンテッソーリ教育」を、天野さんは幼稚園で約40年間実践してきました。

 モンテッソーリというと日本ではお受験や早期教育のイメージを持つ人もいますが、始まりはローマの貧困街で放ったらかしにされていた子ども達を集め実践した教育法。創始者であるマリア・モンテッソーリは医学博士であり、哲学や心理学、教育学などを学び、子どもを科学的に観察して、約100年前に教育法を確立しました。

 子ども達がみるみる変化したことで、世界に広がったその教育法を、日本では最近は保育園で取り入れるところも多く見られます。

 「子どもはそれぞれ自分自身で伸びる力を持っており、それぞれ発達に適した『敏感期』があります。子どもが自分で何かに興味を持ち、夢中になる。それは子どもが何か発達しようとしているときです。大人が上から子どもに何かを教えるのではなく、子どもを観察して何の敏感期か探し、邪魔をせずに環境を整えてあげる。それが大切なのではないでしょうか」(天野さん)

 次回の記事から、専門家がデータや実践結果を基に勧める早期教育について詳しく見ていきます。

小泉英明
日立製作所役員待遇フェロー。東京大学教養学部基礎科学科卒業。日立製作所に入社後、脳機能の計測を可能とする機能的MRI装置や、光を用いて自然な状態で脳機能を計測できる光トポグラフィなど脳科学の発展に寄与する技術開発に携わる。経済協力開発機構(OECD)「学習科学と脳研究」国際諮問委員や、文部科学省・科学技術振興事業団の「脳科学と教育」領域総括などを歴任。著書に『アインシュタインの逆オメガ』(文藝春秋)、『脳科学の真贋』(日刊工業新聞社)など。

内田伸子
お茶の水女子大学文教育学部卒業、同大大学院人文科学研究科修了、学術博士。同大学大学院人間文化研究科教授、文教育学部長、副学長などを経て、現在は同大学名誉教授、十文字学園女子大学理事・特任教授。専門は発達心理学、認知心理学、保育学。ベネッセの幼児向け通信教育講座「こどもちゃれんじ」監修に長年携わるなど多方面で活躍。著書に『子育てに「もう遅い」はありません』(冨山房インターナショナル)など。

林成之
日本大学医学部、同大学院医学研究科博士課程修了後、マイアミ大学医学部脳神経外科、同大学救命救急センターに留学。日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター部長、日本大学総合科学研究科教授などを歴任。2008年、北京オリンピックの競泳日本代表チームに招かれ「勝つための脳」について選手たちに講義を行い、結果に多大な貢献をした。著書に『子どもの才能は3歳、7歳、10歳で決まる!』(幻冬舎)、『〈勝負脳〉の鍛え方』(講談社)など。

天野珠子
駒沢女子短期大学名誉教授。専門は発達心理学。愛珠幼稚園理事長兼園長。東京モンテッソーリ教育研究所理事長。日本モンテッソーリ協会(学会)副理事長。

(取材・文/小林浩子 図版/三弓素青)