役職が上がるほど、子育てとの両立もしやすくなった

 私の実感としては役職が上がるほど、時間管理の面でも裁量が広がって、子育てとの両立もしやすくなったと感じます。

羽生 自分で決められる範囲が広がるから、育児と両立しやすくなるということですよね。一方で、マネジメントの責任は増えていくわけですが、チームをまとめていく上で一番大事にされているのはどんなことですか?

 一人一人をよく観察することです。これは実は12歳からの単身留学経験で培ってきたスキルなんですよ。何かやりたいことがあれば、守ってくれる存在の親がいないなかで、周りの他人である大人たちをいかに巻き込んだら達成できるかを常に考えていましたから。例えば、田舎の寮生活なので「週末にショッピングに行きたいな」と思っても一番近い街にいくのに車で1時間、12歳の子どもだから車を運転できないので、お店に連れて行ってくれる大人を見つけないといけないわけです。まずは寮母さんに希望を伝えてみて「用務員さんが出かけると言っていたから、連れてってくれるかもしれないよ」と情報を得たら、その用務員さんに直接アタックしてみる、といった感じです。そのとき、どうやったら相手が気持ちよく引き受けてくれるか、どんな言葉をかけたらゴール達成できるかをよく考えるわけです。つまり、相手の心に響く言葉を選ぶことがすごく大事。そして、相手の心に響かせるには、相手をよく観察し、興味や能力を見極めなければいけません。同じゴールでも、人によってモチベーションが刺激される言葉は違う。このことを日ごろから強く意識しています。

羽生 観察は相手に対する愛情がないとできないことですよね。

 子育てと同じですよね。その子にとって何を示してあげるのが最適なのか。誰にとってもいい“標準”はないと私は思っています。個々の力を見極めて引き出すことが大切。ビジネスにおけるチーム編成も同じで、どういう組み合わせをすることで最大のシナジー効果が生まれるかを考えます。あえて火花が散るような組み合わせを仕掛けることだってあるんですよ。

羽生 なるほど。でもそういったチームマネジメントをするには非常にエネルギーを要しますし、ご自身が疲弊していては成り立ちませんよね。

 たしかに相手を見極めて、個々の力を引き出す言葉がけをしていくことにはエネルギーを要しますね。でも、あまり気を張らずに自然体でやっています。大げさに褒めるようなことはせずに、ふとした時に見える素晴らしい気遣いなどを発見した時に、声をかけるんです。ありきたりの言葉で誰にでも同じように褒めるのは逆効果で、「あなたのことをきちんと見ていますよ」というメッセージを伝えることに意味があると思っているんです

ドアを開ける直前にアクセサリーを外して母と妻の顔にチェンジ

羽生 麻衣子さん自身が褒められたくなることはないんですか?(笑)

 子どもたちがたっぷり褒めてくれるんです(笑)。最近も6歳の息子が「ママ、がんばっているね。がんばっているママが大好き」と言ってくれました。彼にはたまに怒られることもあります。「疲れたって思うから、疲れるんだよ!」なんて(笑)。

羽生 かわいい~。

 主人も褒め上手です。行事を大事に考えるひとなので、例えば母の日には私と母の両方に、子どもたちから花のプレゼントを演出してくれます。自然と子どもたちも「人を喜ばせたい」という気持ちが育っているような気がします。私はオンとオフを完全に分けていて、家族の時間でエネルギーをチャージしている感覚があります

羽生 いい循環ですよね。帰りたくなるし、また頑張りたくもなる。オンとオフの切り替えというのはどんなふうに?

 家のドアを開けた瞬間にキャラが変わります。ドアを開ける直前に、ハグするのに邪魔なアクセサリーを外して「ただいま~!」と、母と妻の顔にチェンジするんです。家の中では仕事の話はしないようにしていますが、どうしても頭から離れず気になることはありますね。それでも私の場合は「家族」や「愛情」「教育」といった人生経験そのものを投影できるような事業に向き合っているという点でとても幸せです。私自身の経験も含めて日本の幼児向けグローバル教育に感じてきた歯がゆい思いも、これから事業に活かす形でできることがある。もう他の仕事は考えられないくらい天職だと思っています。