母が築き上げた事業が極めて社会貢献的要素が強いことが客観的に見えてきた

羽生 企業イメージとしてはピンク基調のパステルカラーで、麻衣子さんもふんわりとフェミニンな雰囲気がありますけれど、“締める時は締める”タイプなんですか?

 はい、結構怖いと思います(笑)。私、妥協するのは絶対に嫌なんです。

羽生 どういう時に叱るんですか?

 チャレンジを簡単に諦めていると感じた時ですね。自分自身で精いっぱい考えて、全力で試行錯誤した結果であれば、たとえ失敗したとしても問題ないと思っています。少しでも甘さが垣間見えると「ここまで考えましたか?」「こういう方法はやってみた?」と問い詰めます。「このへんでいいかな」と妥協してしまうことが多いのは、女性の悪い癖かもしれませんね。もちろん、他人に言う前に私ができていることが大前提。自分自身にも厳しい目を持ちたいと思っています。

羽生 結果ではなくプロセス重視なんですね。

 ビジネスなので結果は大事です。でも、人が成長するためには、失敗をいかに次につなげていくかという経験が欠かせないと思いますし、そういったプロセスが確かな結果を導くはず。子育てと同じですよね。「楽だから」と安易な方を選択したら、いい結果にはつながらないと思うんです。

羽生 「リーダーを務める自信がない。なりたくない」という女性たちの声に対してはどう考えますか?

 目指すゴールは人それぞれでいいと私は思います。管理職としてリーダーシップを発揮する道を選ぶ人もいれば、専門性のある仕事を突き詰める人、ワークライフバランスを重視していく人……多様な働き方が尊重されることが一番大事なのではないでしょうか。私の場合はたまたま創業者の娘として生まれ、後継者としての道がありました。その道を選ぶと決めたからには思い切り楽しまないと。今はそう思っています。でも、実はこんなふうに思えるまでは、一時期苦しんだこともあったんです。

羽生 そうだったんですか。

 海外でキャリアを積んでいたシングル時代には「私には私の夢がある」と考えていました。気持ちが変わり始めたのは、MBA取得のために留学した時期。ファミリービジネスをテーマにしたクラスで世界各国出身の同級生とディスカッションする機会がありまして、私の母が築き上げた事業が極めて社会貢献的要素が強いことが客観的に見えてきたんです。

羽生 たしか、お母様は麻衣子さんのためにナニーサービスを立ち上げられたんですよね。

 そうなんです。母は私が3歳の頃、「娘を安心して預け、娘にも豊かな時間を与えられるベビーシッターサービスがない」ということに気づき、その後、起業しました。その原点の意義を再認識したのです。また、MBA留学前に祖父母の介護に従事したことも、私の仕事観を変えました。これから超高齢化が進む社会で、今までになかった質の高い介護サービスへのニーズは必ず高まる。まだ世の中にない、でも多くの人の役に立つサービスを提供できる事業に深く携われるのはなんて幸せなことなんだろう。そして、ナニーサービスも介護も、母が大切な家族のために始めた事業です。「愛情」そのものが原動力。そんな事業の経営は非常にやりがいがあるはずだという思いを強めていきました。まるで、私の人生の点と点がつながって線になっていくような感覚がありました。(後編に続く)

(取材・文/宮本恵理子 写真/Keisuke Nagoshi(Commune Ltd.com.,))