あるいじめ事件を機に、スクールカウンセラー導入が進む

 「いじめの『認知件数』は、いじめを受けた子の自己申告です。いじめを受けた子が『つらかった』と訴えれば、1件とカウントされます。単純に数字が多いからいじめが増えたと判断するのではなく、いじめと認め、学校側が動いているという結果を表しています。認知件数が多いのは、小さないじめを見逃さない教職員側の努力の結果ともいえるでしょう」

 認知件数の増加についてこのように解説するのは、学校カウンセリングを専門とする東京聖栄大学の有村久春教授。有村教授は東京都教育委員会いじめ問題対策委員会委員長を務めたこともある、いじめ問題の第一人者だ。

 有村教授によると、いじめの定義についてはここ30年余りで大きく変遷してきた。

 「昭和60年代はいじめの定義すらありませんでしたが、平成6年に愛知県西尾市で起きた中学生の自殺事件を受け、認識が大きく変わりました」

 西尾市の中学生は、自殺する前に便箋4枚にわたっていじめの実態と、いじめによってどれほど苦しんだかをつづっていた。この事件が起きる前にもいじめが原因と見られる自殺はあったが、ここまで子細につづられた遺書は前例がなかったという。この遺書が国を動かした。

 「遺書をきっかけに、公立学校へのスクールカウンセラー導入の整備が一気に進みました。自殺が起きた翌年の7月に制度がスタートし、秋には全国154校に派遣されました」

 スクールカウンセラーは臨床心理士などを中心とした、一定の要件を満たした心理の専門家だ。学校に外部の専門家を入れるという画期的な決断に、国のいじめ問題に対する危機感がうかがえるだろう。現在、スクールカウンセラーは全国で約2万校、東京都の公立校に関しては、小・中・高校全校に配置されている。

 スクールカウンセラーが配置されたことによって、いじめ問題は変わったのだろうか。現役のスクールカウンセラーに話を聞いた。