マタハラNet代表・小酒部さやかさんが企業を突撃取材する連載「小酒部さやかの突撃インタビュー “マタハラはなくて当たり前”の企業はココが違う!」。その連載では「マタハラの実態」についてはあえて触れず、マタハラを許さない企業の工夫について取り上げてきました。さて、こちらの新連載では、マタハラの実態に正面から切り込みます。つらい過去を振り返り、詳しい話を聞かせてくださる取材相手の2人目は、マイさん(仮名)です。マタハラNetが月に1回開催している「おしゃべりCafé」で、経験したマタハラについて赤裸々に語るマイさんを小酒部さんが取材しました。その内容を3回に分けてご紹介します。第1回「マタハラ被害者は“仕事のできない女性”ではない」に続く、第2回です。

後輩が自分を追い越して半年後に妊娠し、自分は流産を経験

マタハラNetが月に1回開催している「おしゃべりCafé」で数年に及ぶマタハラ被害について語るマイさん(仮名)
マタハラNetが月に1回開催している「おしゃべりCafé」で数年に及ぶマタハラ被害について語るマイさん(仮名)

 マイさんに課される仕事量に比例し、職場の先輩によるパワハラは激化した。どうにか耐え続けていたマイさんに、朗報が舞い込む。例の先輩が夫の転勤に伴って引っ越すことになり、仕事を辞めるというのだ。マイさんは心底ほっとし、喜んだ。欠員補充で後輩が採用され、先輩は当然いなくなるものだと思われた。

 「ところが、先輩は結局辞めなかったんです。その理由は『あなたの仕事技術が未熟で任せられないから』だと。普段から仕事を押し付けているのに、ひどいですよね。それに……」と言って、マイさんはくしゃくしゃの泣き笑いの顔で続けた。

 「もっと私にとっては“ひどいこと”が起こりました。新しく入社してきた後輩が、入社後半年で妊娠したんです。先輩は『ご妊娠、おめでとう』と言っていました。後輩は“1年ルール”について、たぶん何も言われていなかったんです。後輩の妊娠を事前に聞いていて、後輩の仕事を私に回すようにしていたのかもしれない。当時も忙しかったですから」

 「実は、後輩から妊娠の報告があった日は、私の流産の手術の前日でした」

 「私も未経験のことで、妊娠したら当然、無事に出産できるものだと思い込んでいたこともあり、忙しい中働き続けていたところ、妊娠8週目で流産してしまいました。そんな事情を誰にも打ち明けられず、表向きには『検査入院』ということにして手術を受けました。手術が必要な流産だったんです。悲しかったし、つらかった」

 あまりにも私に似た体験に、返す言葉が出てこなかった。そして、命を失ってしまったときの、血の凍るような感覚がよみがえった。報われない涙を流した、暗い病室の隅を。

 「手術の後遺症で頭痛がひどく、緊急搬送されました。それでも、次の日には仕事をしなきゃいけなかった。先輩から『どんなに具合が悪くても、親が死んでも、友達が死んでも、必ず与えられた仕事はやりなさい』と日ごろから言われていましたから。でも、人にはそう言う先輩は、自分の子どもが熱を出したら平気で休む。私が『頭が痛い』と言うと、『休むな』とまた説教を繰り返す。仕事はこなしたものの、あまりにも頭痛がひどく、再発も怖かったので、身近な上司に『どうか内密にお願いします』と前置きを言ったうえで、『検査入院』の影響で頭痛がひどいことを話したんです」

 その2日後、激怒した先輩から電話がかかってきた。

 「『なんでそんな大事なことを言わなかった』『私に恥をかかせるつもりか』。そして、『まさか、妊娠してないよね』と。電話越しに先輩の子どもの泣き声が聞こえてきました。泣く子どもをほったらかして、何時間も説教してくるんです。私は、子どもの泣き声がとにかく怖かった。自分の手が血に染まったかのように錯覚して、初めてそこでわっとパニック障害を起こしたんです