2度目の流産手術の日、雪祭りでピエロの格好をさせられる羽目に
マイさんは、2月1日に流産した。妊娠8週目だった。
流産により、今回も手術が必要になった。手術の日は、折りしもマイさんの大好きな父親の誕生日。さらに、たまたま地元の雪祭りが開催されることになっていた。マイさんは、仕事の関係で祭りに参加せねばならず、ピエロの格好をすることが決まっていた。
「子どもがおらず、妊娠しておらず、他の人は妊娠しているから、『あなたがピエロ役をやれ』と言われていたんです。流産の手術をしたその日に、ピエロの格好をして、子ども達の前で氷の上を楽しそうに歩けと」
傷ついたマイさんには、やりきる精神力も残っていなかった。やっとのことで、トップの上司にすべて打ち明け、休暇を申し出た。2度の流産を経験し、先輩から就職の条件として「妊娠しないこと」を約束されていたために「妊娠したことが言えなかった」と話した。上司からは「そうだったのか。マイさんが先輩とトラブルになっているのにはうすうす気づいていた。一度離れて休んでみたら? 君が戻ってこられるように、僕が保証するよ。とにかく、祭りの日は休んでいいよ」と言われた。
しかし、マイさんに追い打ちがかかる。
この上司はすぐに異動になり、後任には一切、マイさんの復帰の話は引き継がれていなかったのだ。 それだけでなく、この上司が再び職場に戻ってきたとき、その上司は「後輩2人が十分戦力になるから、もう君の席はない」とマイさんに言ったという。ハラスメントにありがちな「落ち着いたら復帰しなさい」という体のいい厄介払いである。
本来はハラスメントの解消と、社内環境の改善に努める立場でいながら、この上司はしばらくしてから、残った最後の仕事も辞めるよう告げてきた。「君がそんなに“中絶”しているとは知らなかったから」と。マイさんは激怒した。流産を中絶と言い換えられたのが許せなかった。自分の意志で、働きたいから、先輩が怖いから、堕胎したのではなかった。「猛烈なストレスが私を流産させたのだ」と言いたかった。
マイさんは仕事を辞めることにし、夫と一緒に上司のもとへ行って謝罪を求めた。上司は終始半笑いのまま「君の思い込みだ」と言い張り、マイさんが証拠として「あなたの話し声を録音しておいた」と言うと、「録音しているならなんでそう言わないの。知っていたら言わなかったのに」とうそぶいた。結局、謝罪の言葉は口にしたものの、頭は決して下げなかったという。
* 次回に続きます。
(ライター/水野宏信、撮影/村上 岳)