職場をより良い方向へ導く理想の上司とは? 2人の管理者に聞く

 グループに分かれディスカッションを行った今回のダイバーシティマネジメント研修では、各テーブルに必ず1人は時間制約社員を直接部下に持った経験者がいるように座席を配置。実際の声を聞くことで、未経験者がより身近な自分ごととしてシミュレーションし、意識づけができるよう工夫をしています。研修終了後、時間制約のある社員を部下に持った経験がある、開発部門、営業部門の各課長に話を聞きました。

―― 今回の研修の感想はいかがでしたか。

40代営業部門課長・Eさん(以下、Eさん):私が担当しているのは、現在女性2人と男性3人の6人のチーム。育児中の時短の社員が昨年度までは2名、今年度は1名と、たまたま部署に時間制約社員を抱えているという経験が長かったこともあり、育児中の社員に関する話は大体分かっていました。でも、介護の人はまだ少ないので、グループディスカッションで他のマネジャーさんが持っている問題意識を共有できたことが良かったですね。私は育児休職後の社員と接する経験が多かったので、未経験の人に「どんな対応で実際に困るのか」ということを共有することができました。

50代開発部門課長・Kさん(以下、Kさん):同じく、色々な方とお話ができたのは良かったですね。私自身がリアルタイムで時短勤務の部下がいて、10人のチームで3人が産休・育休という職場を任されています。マイナスの補充はありません。研修では「コミュニケーションや気遣い、情報共有が大事」という話が中心でしたが、実際にその状況下にいる立場からすると、自然とそうならざるを得ないので一般的な話かなと感じました。実際に復職されたばかりの方は不安を抱えているんですが、ただ気遣いをしてもその不安はなかなか解消されません。捉え方も対処の仕方も人それぞれなので、具体的な相談にのっていかないといけない。自分としては、もう少し同じ境遇の方と踏み込んで、「こういう悩みを抱える場合がある」ということをより多く聞けたらもっと良かったですね。

写真はイメージ
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―― 職場で困っていること、工夫していることがあれば教えてください。

Eさん:1人だけに任せてしまうと結果的に仕事が回らなくなってしまうことがあります。一定の仕事を担当してもらっているので、私自身が最低限のフォローをしなければいけない。小さなお子さんを抱えていると、子どもが熱を出してしまったということは珍しくありません。そういう事態を解決する工夫として、在宅勤務を積極的にしていますね。また、外を歩くだけが営業ではないので、本人のやりたい仕事の希望を聞いたうえで、子どもが2人いて小さいので外回りがきついという話があれば、営業支援のような位置に配置するなど調整しています。在宅勤務の勤務実態の把握としては、事前に明日の作業予定や大まかなスケジュールを書きますし、実際にメール連絡やデータ入力の記録も見られ、大体分かります。在宅勤務を取り入れることで、効率よくやってもらっている感じはしますね。

Kさん:在宅勤務に関してはEさんと全く同じ、時短の方には在宅勤務ができるようにしています。若い社員が多い部署なので、男性社員もいわゆるイクメン世代。全体をシフト体制にして、勤務時間を少しずつずらすなど、各自が働きやすいようにできる範囲で調整しています。また、仕事は何人かで分担できるように割り振っておいて負担が集中しないように。ペアは固定せずにある程度柔軟に組めるようにするとともに、チーム全体がどういう状態なのか知るようにしました。そういうふうにしないとやっていけないから、手探りで仕組み作りをしてきた感じですね。独身の方もいるので、どのようにケアするのかが大事で、そこは難しい部分。不満はないというけれど絶対にあって、そこに答えはありません。段取りをきちんとして急に振ることがないようにするなど、なるべくフォローする人の気持ちも理解するようにして頼むしかない場合もあります。

―― 課長自身の悩みや意見は、普段誰に相談しているのでしょうか。

Eさん:普段は上司や部長、同僚としています。そこは風通しがいい組織だと思います。部署や性格にもよりますが、一人で抱えているという人はあまりいないんじゃないですかね。私は、職場の風土を良くしていくための有志による会に参加し、「育児時短者にどのように仕事してもらうか」について、他部署も含めてヒアリングをしたことがあるのですが、在宅勤務をはじめとした様々な制度があっても、それをマネジャーがどう運用するかがポイント。同じ育児時短者でも微妙な個人差があり、そこは課題かなと思います。ただ、制度が使いやすくなり、今はよく回るようになってきたと思います。

Kさん:在宅勤務を取得するための規定条件が、より実態に即した取りやすい仕組みに変わりましたよね。シフトも柔軟になり、この半年でリアルに変化を感じ、会社の本気度を感じます。

―― 働き方が多様化する中で、おふたりが考える理想のマネジャーとは。

Kさん:うーん、答えはまだ出ていないですね。僕が今感じているのは、復職されてきた方の多くが休む前と今とで気持ちが随分変わるんです。気持ちが下降気味になったときに、そこを上げるのにどんなに自分のキャリアを考えようと伝えてもなかなか心に響かない。チームの一体感とチーム自体のモチベーションも関係していて、当事者とだけ色々やっても駄目だなと思いました。今までも目標設定をしていたけれど、チームの目標設定が一人一人の所属意識になるということが発見でした。もちろん、全く逆のタイプで最初からやる気満々の人もいるかもしれない。そこをどういうふうに気持ちをくんであげられるようになるか、チームで考えるかが大事だと思っています。

私も共働きなんですが、自分の時代は硬直した働き方の選択肢しかなく、ものすごく大変でした。でも当時の上司が良くて、マネジャーの裁量の中での運用で助けられました。だから、私の働きやすい職場の環境づくりのベースは、そこからスタートしている感じがしますね。

Eさん:最終的には、やはり部下とのコミュニケーションなんですよね、定義が広くて難しいんですけれど。私の部署の場合はチーム編成が比較的長く、私がやらなくても事情を知っている周りの社員が状況を理解し、前向きな姿勢で互いに助け合う人間関係が既にできていました。でも、全然違う人が時短勤務でスポッと異動してきたときに、同じようにうまく回るかは分からない。部下同士の橋渡しはマネジャーとしてやっていかないといけないと思っています。毎朝ミーティングを30分近くするんです。そこでノウハウ共有も含めて、色々話を聞いています。抱え込んでしまうとお互いに駄目で、上司もすぐに上に相談できる体制があれば、誰も抱え込まずに済みます。私も忙しくて飛び回っていますが、風通しは良くしていて話しやすい環境であるのではないかと思っています。

【企業DATA】
エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社(略称・NTTコムウェア)
資本金:200億円
創業:1997年9月1日
社員数:6730人
男女比率:女性10.1%
管理者女性比率:女性3.1%
http://www.nttcom.co.jp/ 
※社員数、男女比率、管理者女性比率は、2016年3月末現在

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(写真/鈴木智哉 文・構成/日経DUAL 加藤京子)