歌手としてこれまでずっと個人プレーでやってきたが…
―― 出産はママの体に大きな変化をもたらしますね。歌のお仕事に復帰するにあたって大変だったこともあるのではないでしょうか。
林 妊娠中、おなかの中にあったたっぷりの羊水が2人の子どもと一緒にぶわっと抜けたので、体を支えるバランスが変わってしまいました。初めはどこを支えにしたらいいかを探りながら歌うような状態でしたね。母乳をあげている時期は貧血状態や寝不足で、準備も十分にできていないままステージに立つことも正直ありました。自分の中ではプロとしてそれまで保っていたクオリティーというものがあり、そこに達しないものをお金を払って来てくださるお客様に聞かせるのは申し訳ないと思うことも正直、ありました。その一方で、引き受けた仕事を務め上げるという社会的な責任を果たしたい思いも強かった。こうした経験から学んだことは多いです。
歌手としては、歌うことに対する意識が変わりました。また、体がこう変化したときは歌がこういう状態になるのか、といった実体験が事細かにできました。子どもの熱をもらってしまったり、眠れていなかったりする中で歌うときには、人間の体ってこんなに強いんだということを実感できました。
もう一つ大きかったのは、社会の中で人がどう存在しているのかがよく見えるようになったこと。生命の誕生は必ずしも喜びだけではありません。欲しくても何らかの理由でご縁がない人もいらっしゃるし、仕事で大変な時期に妊娠しプロジェクトが中断してしまうことへの心配を抱える人がいたり、いろんな人達の立場、状況があって、支え合って社会が成り立っている。社会や人にとって尊いことは様々にあって、何一つ比べようがありません。
歌の世界ではこれまでずっと個人プレーでやってきて、より大きな視点で様々な人の気持ちや立場があることに気付かされました。
―― インタビューの「下」編では、歌うことに対する意識がどう変わったのか、詳しく伺っていきます!
(文/谷口絵美 撮影/小野さやか)