「希望の園」欄をすべて埋めず、区の担当者にきつく言われた

―― お仕事は出産前のギリギリまで続けていたのですか。

 こういうことを話すと、肩身の狭い思いをする人が出てきてしまわないか心配ですが……。オペラというのは1~2年先までスケジュールが決まっている業界で、コンサートも1年先の公演が売り切れていたりします。おめでたいことであっても、決まっていた仕事を前にして突然降板するのは、個人の姿勢や信頼に関わってくることでもあるんですね。代わりがいないと言っていただけるのは非常にありがたいことですが、こればかりは前もって計算することもできないので、本当に難しいです。

 大抵のことは理解が得られて休ませてもらえますが、私の場合は健康上の問題がなく、出産の2週間前までステージに立ちました。最後は確か座って歌ったと思います。

―― 1人でも大変な育児ですが、実際に双子の男の子の育児をスタートしてみていかがでしたか。

 後になって「大変だったでしょう」と聞かれることが多いのですが、そのときは初めてだったし、「こういうものだろう」と受け止めていました。授乳していたころはおっぱいも同時に欲してくれないし、1人が泣きやんだと思ったら、すぐにもう1人が泣き出して、かわりばんこにあやして気が付いたら夜が明けていた、なんていうこともしょっちゅう。少し大きくなったころに保育園で一緒になった女の子達がぴゅーっと走っていくことがなかったり、親の話をきちんと聞いていたりするのを見て、「男の子の双子!」と人から驚かれた意味を知ったこともあります。

 仕事を再開したのは、出産の1カ月半後です。母乳にミルクを少しずつ混ぜて、徐々に母乳からミルクに移行していく方法を病院で教えてもらったので、仕事復帰はスムーズにいきました。ただ最初の1年は保育園が見つからず、仕事があるときは埼玉から母に来てもらいながら、自分で見ていました。私のような職業は勤務時間などが枠にはまらないので、園の申し込みで非常に不利なんです。それで断念してベビーシッターを頼む人がほとんどですね。

―― 林さんも保活で苦労されたのですね。

 2年目に認可保育園に申し込む際、申込書に希望の園を書く欄が10カ所以上あったのに、自分が送り迎えできる範囲で考えたらどうしても全部を埋められなかったんです。そうしたら、「何で埋まっていないんですか。預ける園が見つからなくても、双子の2人が別々の園になってもいいんですか」と区の担当者にきつめの口調で言われてしまって。「ああ、自分は甘い考えだったんだ」と思い知らされ、落ち込みました。これだけ待機児童が多いのだから、「どこでもいいからよろしくお願いします」というお母さんも多いはずですよね。

 ベビーシッターにお願いすることも頭をよぎったのですが、保育園に比べてお金がだいぶかかるし、慌ただしい生活で結局、詳しく調べる時間もなくて。そうこうしていたら、ある日電話がかかってきて、第1希望の保育園への入園が決まったんです。双子ということで加点がもらえたのと、ちょうど夫が留学中だったので収入が不安定という点も考慮されたようでした。