2002年に新国立劇場でオペラデビューを果たして以降、華やかさと抜群の歌唱力で活躍を続けるメゾソプラノ歌手の林美智子さん。私生活では2010年に双子の男の子を出産し、6歳になった息子達の子育てに奮闘しながらステージに立つパワフルなママでもあります。周囲をぱっと明るくする朗らかな笑顔が魅力の林さんに、舞台人としても、一人の人間としても大きな変化を経験することになった妊娠、出産の日々を振り返っていただきました。2回の記事に分けてお届けします。

キャリアとの両立に対する不安はなく、喜びしかなかった

日経DUAL編集部 歌手として精力的にステージに立っている中での妊娠、それも双子だと分かったとき、最初はどんな気持ちでしたか。

林美智子さん(以下、敬称略) あれは自分の人生の中でも一番不思議な出来事でした。歌うことが大好きで、20代のころから仕事一色で生活してきて、ふと「そろそろ子どもが欲しいな」と思うようになっていました。うちは夫も演出家で共働き。一人っ子ではカギっ子にしてしまうし、私自身が3人きょうだいで育ったこともあって、子どもを持つなら2人以上欲しいな、でも2人だと年子だとしても順番に妊娠して出産するのに2年かかるし、双子や三つ子を授かっても、アメリカなどではよく聞くけれど大変そうだな、実際はどうなんだろう……。そんなことを思っていたら、その月に双子の妊娠が分かったんです。もう、「えーっ」という気持ちでした。

―― 運命のようなものを感じますね。妊娠、出産がキャリアに影響することへの不安もありましたか?

 それがもう、喜びしかありませんでした。子どもを授かったのは38歳のとき。歌手は体を資本とし、舞台に立ち続ける特殊な仕事ということもあり、キャリアを重視して出産を諦めたという話を諸先輩方から聞くこともありました。ただ、私自身は若いときから30代半ばまでずっと突っ走ってきて、仕事に対するある種の達成感みたいなものを感じていましたので、この先いつ妊娠してもいいという気持ちでした。不安は一切ありませんでした。

―― 高齢出産への心配はいかがでしたか。

 病院へ通うようになって、お話しする周りの妊婦さんは割と同年代が多かったんです。先生にも「林さんは健康ですね」と太鼓判を押されていたし、不安よりもとにかく喜びのほうが勝っていた感じでした。出産経験のある歌手の先輩に聞くと、妊娠中は歌いやすくなると皆さん口をそろえて言うんですよ。おなかの赤ちゃんのおかげで、重心がいい具合に安定するのだと。ただ双子のケースは聞いたことがなく、どうなるのか未知数ではありました。実際は重心が下がり過ぎて、低音は充実していましたが、体を上に引っ張って発声する高音は出しづらかったですね。

 一卵性の双子だったので、1つの胎盤を共有する2人のどちらかに栄養が偏らないようにと、どんどん食べていたら、最終的に30kg近く太りました。臨月のころはもう新幹線の頭みたいにおなかが突き出ていて……。帝王切開で出産しまして、体重は1人2500gずつでした。