子どもの成長に合わせて、適切なチャイルドシートを正しく使う

「子どもの成長に合わせて、適切なチャイルドシートを選び、正しく使う必要があります」というボルボ・カー・ジャパンの益田香さん
「子どもの成長に合わせて、適切なチャイルドシートを選び、正しく使う必要があります」というボルボ・カー・ジャパンの益田香さん

 ただし、チャイルドシートは「単に使えばいい」というものではありません。「子どもの成長に合わせて、適切なチャイルドシートを選び、正しく使う必要があります」と指摘するのは、チャイルドセーフティの普及・啓蒙に取り組んでいるボルボ・カー・ジャパンの益田香さんです。

 スウェーデンの自動車メーカーであるボルボは、その安全性に定評がありますが、安全を追求する姿勢は昔から変わりません。例えば、今や当たり前になった3点式シートベルトは、実は1959年にボルボが開発したものです(特許取得後、無償で公開)。そして、「車内では、からだの大きさにかかわらず、子供も大人と同等の安全性を確保しなければならない」という基本理念のもとに、チャイルドセーフティ開発に50年以上取り組んでいる、いわばチャイルドセーフティのパイオニアでもあります。後ろ向きチャイルドシートを1972年に世界で初めて発表したのもボルボ。背中全体で重力を分散する宇宙飛行士のシートがヒントになったといいます。

 そんなボルボで、セーフティの研究開発を行っており、チャイルドセーフティの第一人者でもあるロッタ・ヤコブソン博士(スウェーデン本社セーフティセンターのシニア・テクニカル・リーダー)によれば、まだまだ多くの人が勘違いしていたり、間違った使い方をしているところを目にするといいます。

 「ロッタ博士を中心にしたセーフティセンターの研究結果は、日本の多くの方々にもぜひ知っていただきたいと考えて、ボルボ・カー・ジャパンでは、その普及活動を続けています」と、益田さんは話します。セーフティセンターの知見に基づき、まずは、3~4歳までの正しいチャイルドシートの使い方を見てみましょう。

3~4歳までは後ろ向きが正解

首の骨は、幼い子どもの水平な頸椎骨から鞍部型をした大人の形状への数年かけて次第に変形・成長する。鞍部型をしているのは、頭部が前方に投げ出されたときに、頸椎骨が連動して支え合うため。幼い子どもはこの防御装置が十分ではない
首の骨は、幼い子どもの水平な頸椎骨から鞍部型をした大人の形状への数年かけて次第に変形・成長する。鞍部型をしているのは、頭部が前方に投げ出されたときに、頸椎骨が連動して支え合うため。幼い子どもはこの防御装置が十分ではない

 日本では、多くの人が、1歳くらいまでは乳児用のチャイルドシートもしくはベビーシート(後ろ向きに使用する「シートタイプ」と横向きに使用する「ベットタイプ」がある)を使い、1歳になったら、前向きの幼児用チャイルドシートに変えています。これは、国交省も推奨している使い方です(※3)。

 でも、益田さんによれば、「1歳では、前向きにするには、まだまだ早すぎます」といいます。「ボルボでは、身体が窮屈になって入らなくなるまで、できるだけ長く“後ろ向き”を推奨しています。少なくとも3歳まで、できれば4歳までは、後ろ向きに座らせてください」(益田さん)

 その理由は、子どもの骨格、体格が大人と全く違うからです。子どもは小さな大人ではありません。頭が重く、首の骨や筋肉も未発達です。例えば、首が据わった後でも、頭を支える首の骨の形は、大人と子どもでは違います。「頚椎骨が平たく、重なっており、例えて言うなら『ダルマ落とし』のよう。ですので容易にずれやすく、衝撃に耐えることができません。“首がすわった”ことは大人と同じ強さを持ったということでは決してないのです」(益田さん)

 大人と比べると体重に占める頭の重さの割合が高く、しかも骨も未発達な乳幼児が、前向きのチャイルドシートで衝突事故に遭えば、強い力を受けて大きくて重い頭部が激しく前に投げ出されることになり、ズレやひっぱりに対する抵抗が少ない頸椎部が損傷する可能性が高くなります。首の筋肉と靭帯も未発達なので、成人であれば事故でむち打ちになったというケガが、幼児だと重傷になってしまう可能性も高いのです。

車に乗る際に、最も安全な方法は「後ろ向き」に座ること。特に子供の首は脆いため正面衝突時に発生する前方に放り出される重圧に耐えることができない。前を向いたシートでは、衝突の際に首にかなりの負荷がかかるが、後ろ向きチャイルドシートなら、この力は子供の背中と頭の全体に分散される
車に乗る際に、最も安全な方法は「後ろ向き」に座ること。特に子供の首は脆いため正面衝突時に発生する前方に放り出される重圧に耐えることができない。前を向いたシートでは、衝突の際に首にかなりの負荷がかかるが、後ろ向きチャイルドシートなら、この力は子供の背中と頭の全体に分散される

 これに対し、後ろ向きのチャイルドシートを使っていると、正面衝突時の衝撃の力は後頭部から肩、背中にかけた広い面積で分散できます。このため、首や肩、頭、内蔵への負担を大幅に軽減できます。ボルボ・セーフティセンターの衝突実験によれば、時速57kmで正面衝突した際に中にいる子どもの首にかかる力は、前向きは後ろ向きの約7倍にもなります。つまり、乳幼児のチャイルドシートは後ろ向きにするべきなのです。

ボルボの後ろ向きのチャイルドシート
ボルボの後ろ向きのチャイルドシート

 「スウェーデンでは、後ろ向きチャイルドシートをできるだけ長い期間使うことがあたりまえになっています」と益田さんはいいます。これは少し古いデータですが、ドイツとスウェーデンの交通事故時の死亡者数を比較すると、1歳時点で大きな差が出ます。「これはドイツでは1歳前後で後ろ向きから前向きに変えるので、より骨の未発達な1歳児の死亡率が上がるからではないかと考えられています。最近では、ヨーロッパ諸国でも後ろ向きを長く使い続ける方も増えてきているそうです」(益田さん)

子どもの乗員の死者数(出典:国家統計)
子どもの乗員の死者数(出典:国家統計)

 「年齢だけで区切るのではなく、身長や体重、体格に合わせて、後ろ向きを続けられるうちは、できるだけ前向きに切り替えないほうがいい」と益田さんは話します。

※3:チャイルドシートコーナートップ