やり抜く力(グリット)が成功の原動力となる

 『やり抜く力――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』(ダイヤモンド社/アンジェラ・ダックワース著・神崎朗子翻訳)という本が2016年9月に発売され、すでに11万部突破のベストセラーになっています。

 ペンシルベニア大学の心理学者である著者は、目標に向けて努力し続ける資質を「GRIT(グリット)=やり抜く力」と名付け簡易的にこれを計測できるテストを考案しました。GRITスコアとIQの高さに関連性はない一方で、やり抜く力が強い人はその後の成績が伸びたり、積極的な行動を取ったりと、成功の原動力となることを示した、というのです。(週刊東洋経済2015年10月24日号 P.62)

 「こつこつと、地道な努力を続けられる人が、最後に勝つ」という、「ウサギとカメ」の話の通りなのですが、こうした古くから広く受け入れられている考え方が、科学的に裏付けられるようになってきているのですね。

 「GRIT(グリット)=やり抜く力」とは、まさにアドラー心理学でいう「勇気=困難を克服する力」と同義と考えてよいでしょう。先天的な才能よりも、地道な努力の積み重ねのほうがよりよい結果に近づきやすいというのですから、希望を持てませんか? それとも「その、こつこつと努力を継続するのが難しいんだよ!」と思われますか? そんなときこそ、「勇気づけ」のコミュニケーションを実践し、自分にも他者にも、困難を克服し、やり抜く力を授けてほしいと思います。

 やる気がなく、勇気がくじかれた状態で産まれてくる子どもはいないでしょう。人は誰でも産まれたときから「やる気」という名のエンジンを心に携えていると、私は考えます。このエンジンがグルグルとエネルギッシュにまわっている状態を想像してください。アメやムチといった外発的な動機づけの効果は限定的です。一方、やる気に満ちあふれて、勝手に自走しているような、内発的に動機づけられた状態は強いですよね。まさに「グリット」がある状態です。これを確保するためには「勇気という名のガソリン」を注入する必要があるのでしょう。

 最近の様々な学術的な研究成果が、人の成功にとって非認知スキルが重要なことを証明し始めています。そして、こうした非認知スキルを高めるために「勇気づけ」のコミュニケーションが有効であることが、もっと世の中に広まっていくことでしょう。

 自分で自分に「勇気のガソリン」を注入する。さらに、他者のエンジンに「勇気のガソリン」を注入できるような人になる。このコラムを通して、皆さんが勇気づけられ、勇気づけできる人としての一歩を踏み出していただけるならとても幸せです。

<参考文献>
・アドラー 子育て・親育てシリーズ 第1巻 育自の教科書 ~父母が学べば、子どもは伸びる~(熊野英一 / アルテ) 購入はこちら
・アドラー心理学教科書 –現代アドラー心理学の理論と技法- (監修 野田俊作 編集 現代アドラー心理学研究会 / ヒューマン・ギルド出版部)
・7日間で身につける!アドラー心理学ワークブック(岩井俊憲 / 宝島社)
・ELM 勇気づけ勉強会 リーダーズ・マニュアル(ヒューマン・ギルド)
・週刊東洋経済 2015年10月24日号 「教育」の経済学
・幼児教育の経済学(東洋経済新報社/ジェームズ・J・ヘックマン著・古草秀子翻訳)
・やり抜く力――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける(ダイヤモンド社/アンジェラ・ダックワース著・神崎朗子翻訳)