学生時代の言葉を「有言実行」できたのは、夫婦の価値観が同じだったから

―― 3児の母であり、夫と育児分担をしながらきっちり仕事されている羽田さんは、後輩世代にとっては重要なロールモデルとなるでしょうね。

羽田 計画的だったわけではないのですが、実は3人目の育休に入るときの送別会で、上司に「君、有言実行だね」と言われて驚いたことがありました。どうやら、大学時代に官庁訪問した際、10年後の自分について書く欄に「政策の最前線に立つ3児の母」と書いていたそうなのです。普通は「〇〇分野のプロフェッショナル」とか書くのだと思うのですが……。私自身はすっかり忘れていたのですが、もしかしたら最初から頭のどこかで目標にしていた姿なのかもしれません。

 両立していくうえでは、「仕事や育児に対しての夫婦の価値観」が同じであることも重要だと思っています。私は専業主婦の母に育てられたこともあって、子どもの面倒は自分達でみたいという気持ちが強いです。仕事はバリバリしたいと思っているのに、ベビーシッターとかにアウトソーシングすることには戸惑いがあるんですね。

 そんなジレンマを抱えているのですが、この価値観は夫も同じで、「育児を外注するのではなくて手分けして自分達で面倒をみよう」という考えでした。これがすごく大きかったと思っています。私は心理的な抵抗があるのに、「そんなのシッターさんやおばあちゃんにお願いすればいいことじゃないか」という夫だったら、難しかったかもしれません。

―― 出産前の後輩女性職員から相談を受けることも多いのではないでしょうか?

羽田 そうですね。官庁の仕事というのは、どうしても長時間労働となる時期があるため、結婚・出産前の女性がふと不安を覚えるときがあるという声は耳に入ります。まだまだ管理職のワーキングマザーは少ないですし、両立に成功している人は頭が飛び抜けて良くて、両親も近くにいるという印象が強い。「地方出身で能力も普通の自分にはできないのではないか」、と不安を漏らす方もいらっしゃいます。また、男女ともに同等のキャリアを持ち、仕事の責任と同様、家庭責任もしっかり果たしたいと考える男性が増えていると感じています。

 女性の採用数は、私達の世代よりもずっと増えているのが今の20代と30代。先のことまできちんと考えている世代だからこそ、その不安は解消できるようにしていきたいと思っています。

羽田さんのお助けアイテム

(1) 夫

「週2回ずつ、夕飯の作り置きから保育園のお迎え、寝かしつけまでを全て夫婦で分担。夫なしには成り立ちません」(羽田さん)

(2) スマホの予定共有アプリ「URECY(ウレシイ)

夫婦でスケジュールを同期して、保育園や通院などの用事をすべて共有しているほか、個人の予定(夫とは非共有)を管理しているという羽田さん。「日々のお迎え担当決めは“早い者勝ち”。仕事や飲み会の予定はアプリを通じて入れるルールにしているので、その場で先の予定の見通しをつけられて、とても助かっています。それまでは冷蔵庫のカレンダーに書いていたりしたのですが、私が予定を忘れたりして(苦笑)。アプリはいつでも見られるので便利です」

(3) 職場宛のメールがスマホで見られるアプリ

「プッシュで通知が届くので、職場を離れてもタイムリーにやり取りができますし、翌朝通勤しながらキャッチアップができています。セキュリティ面も万全。“職場を離れても仕事ができる”という仕組みは、私にとってはありがたいです」(羽田さん)

取材後記

男の子3人のお母さんとは思えないほどの柔らかい雰囲気ですが、淡々と語る言葉の中に、強い信念と熱い思いが垣間見える羽田由美子さん。忙しいご主人と相談しながら、少しずつ改善して現在のベストな形に辿り着いたという話で、「勇気を出して任せてみる」と語っていたことが印象的でした。人間、どうしても変えることに億劫になってしまうし、基本的に女性のほうが細やかな場合が多く、パパの“大雑把育児”が気になってしまうことはあるけれど、「ドカン」と任せてみることも大切です。

これは、小・中学生の子どもを育てるときも、会社で後輩を育てるときも同じかもしれません。心配な気持ち、自分でやってしまいたい気持ちを押し殺して「まずは任せてみる」。それには、手を離す側の気持ちの強さも必要になってくるのだと思いました。

(撮影/鈴木愛子)