青森県の多くの自治体では世帯年収272万円で所得制限がかかる

 子どもの医療費に関する問題点を分かりやすく解説していきます。

現物給付方式と償還(しょうかん)払い方式

 医療費の助成制度には、現物給付方式と償還払い方式があります。

 現物給付方式とは、医療機関に保険証と受給証を提示すれば一定の自己負担額(あるいは無料)で医療が受けられるもの。償還払いとは、一旦窓口で2~3割の自己負担額を支払い、後日自治体で手続きをすることで、助成が受けられるというものです。

 償還払いのみを導入している自治体は、奈良県、福井県、三重県、鹿児島県、沖縄県などにある市区町村で、全国的に減少傾向にあります。また、親御さんからの評判は悪いです。

 入退院を繰り返している子どもがいる家庭では、一時的に高額な金額を支払わなければならず、負担が大きいといえます。高額療養費制度はありますが、申請が通るのに時間がかかるため、間に合わない場合も多くあります。

 現物給付を実施している自治体では、医療機関を受診する患者数が増え、医療費が増加すると解釈されるため、国は「増えた分の医療費は自治体が負担すべき」と考え、国庫負担金を減らすというペナルティーを課しています。ですから、現物給付にせず償還払いにしている自治体があるというわけです。償還払いを実施している自治体の医療費は抑えられているという報告もあります。

 本検討会では、このペナルティーの見直しを求める意見が自治体から続出しており、見直しの方向で進む可能性があります。

所得制限という問題

 2014年度厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課調べによると、所得制限がない自治体は1373市区町村、所得制限がある自治体は369市区町村で、所得制限のない自治体のほうが圧倒的に多くなっています。

世帯年収272万円で所得制限がかかる自治体のケース

 青森県の青森市以外の主な市では、子どもが一人いる家庭の場合、272万円の所得で所得制限がかかります。つまり272万円以上の所得のある家庭だと、子どもの医療費も負担が2~3割となるのです。病気がちな子どもを持つ家庭では、日々の医療費の負担がとても大きいといえます。

 実際に、「医療を必要とする子どもが、医療を受けられていない」という病院からの報告も上がっています。

2年前の所得制限により子どもの受給券が失効したケース

 あるご家庭の例です。現在、父親が難病により長期の休職を余儀なくされ、所得が激減しています。その上、子どもにも同じ疾患が遺伝していることが分かり、定期的な通院と投薬が必要な状況です。

 母親は仕事をしていますが、子どもの通院や体調によって欠勤が増えるため、フルタイムでの勤務は難しい状況です。所得が減り、医療費がかかる状況にもかかわらず、2年前の所得が参考にされるため、所得制限により小児医療受給券が失効してしまいました。翌年からはもちろん所得制限以下になるので自治体に申し立てましたが、「1年間待たないと再発行はできない」との回答でした。

 小児医療受給券が失効すると通知が届いたのは、失効の5日前でした。慌てて小児慢性特定疾病の申請をしたものの、申請が通るまでは自己負担を余儀なくされます。慢性特定疾患以外にも、子どもなので他の感染症にかかることもあります。その場合は3割負担になります。

 「この1年間、なるべく他の病気やケガがないよう祈るばかりですが、乗り切れるか大変不安を抱えています」と話します。

 上の例では、所得が激減し、医療にかかることが増えてしまったのに、2年前の所得を参考に助成が受けられなくなるとは本末転倒です。一番困っている人に届けるための制度という本質からずれてしまいます。