インターネットの情報だけが頼りという孤独な状況に陥りがちな妊婦達

 出生前診断について医師からの情報提供が少ない日本では、不安を募らせた妊婦さんは、インターネットの情報だけが頼りという孤独な状況に陥りがちである。

出産施設で情報提供もカウンセリングもなく不安を募らせた妊婦さんは、判断の手がかりを得るために「インターネットの情報だけが頼り」という孤独な状況に陥りがち 
出産施設で情報提供もカウンセリングもなく不安を募らせた妊婦さんは、判断の手がかりを得るために「インターネットの情報だけが頼り」という孤独な状況に陥りがち 

 Hさんは、親からも、夫からも、「障害のある子は産んでも育てられない」と、すでに障害が決定したかのような意見を聞かされた。親戚も「産んではいけない」と電話をかけてきた。Hさんも次第に、そのほうがいいと思えてきた。

 でも、日に日に大きくなるお腹の子どもと、一体どうやって別れたらいいのか。やがてHさんは「お腹の子と心中するのはどうだろうか」という考えさえ、抱くようになった。それはHさんの、子どもと絶対に別れたくないという強い気持ちの表れだったかもしれない。

 そんなある日、Hさんはネットで、胎児超音波検査の専門クリニックを見つけた。すがるような思いで予約を取り、Hさんの住んでいた熊本県からクリニックがある大阪府まで、飛行機で行く予定を立てた。せっかく授かった赤ちゃんが流産のリスクにさらされる羊水検査は、簡単に決心できなかった。そこで、まず、専門の訓練を受けた医師による胎児超音波検査を受けてみたいと考えたのだった。

 しかし、予約日の数日前に、Hさんは子宮筋腫が痛み出して緊急入院することに。やむなくクリニックの受診を断念した。

 「地元で、何とかしなければ」

 Hさんが次に考えたのは、かかりつけ医に、ストレートに「大学病院で診てもらいたい」と伝え、「紹介状を書いて欲しい」と頼むことだった。本来、NT肥厚を心配している妊婦さんがいれば、かかりつけ医はすぐに臨床遺伝専門医などの専門医に紹介すべきだ。

 でも、そうしてもらえなかったHさんは「私を信用していないのか」と医師に怒られることを覚悟し、勇気を出して自分で頼んだ。

 紹介状を手に大学病院に行ったHさんは、初めて、自分に十分な時間をかけてくれる医師から、わかりやすい説明を受けることができた。大学病院の医師はHさんに「NTが厚いと言われて羊水検査を受けても、異常が見つからない人のほうがずっと多いですよ」と言ってくれた。気持ちが落ち着いたHさんは、やっと羊水検査を受ける決心ができた。泣いてばかりいる日々は、もう終わりにしたかったのである。