妊娠前は検査をするに決まっていると思っていたのに、実際に妊娠してみたら、どうしても違和感を感じてしまい、最終的に受けなかった人もいる。この女性は、海外にいる同僚から「NIPTを受けなさいよ、早く!」というメールももらったし、受けたいと思いつつ、「何かが違う」という自分でも正体のわからない感覚がぬぐえないまま、検査が可能な週数を通り過ぎた。
「出生前診断に賛成か、反対か」と熱く論じたり、両方の気持ちを持っていることを「ダブル・スタンダード」と言ったりするのは、私にはとても男性的な感覚だと感じられる。
出生前診断をめぐる女性達の想いは「賛成・反対」で割り切れるものではなく、その人がそれまでの人生で見てきたこと、やってきたこと、されてきたことのすべてが織り込まれた、複雑な色合いのつづれ織りなのだ。
偶発的にNT肥厚を見つけられた
35歳のとき、不妊治療によって念願の妊娠を果たしたHさんは、偶発的にNT肥厚(※超音波検査で見える首の後のむくみ。ここが厚いとダウン症候群など胎児疾患の可能性が少し上がるとされている)を見つけられた一人だ。衝撃的な告知と、その後に経験した葛藤の日々は、いまもトラウマになっているという。
Hさんは、かかりつけ医でのいつもの妊婦健診の超音波検査で、ふと医師の操作が気になり、それがすべての始まりだった。何かあったのかと質問したところ、いきなり「染色体疾患の可能性が高い」と言われた。
「私は、余計なことを聞いたのかもしれません」
Hさんには、インターネットで「超音波検査でもわかる染色体異常のサイン」としてNTを取り上げた記事を読んだ記憶があった。それで、医師が赤ちゃんの頭部を見ながら「ピピ」という音を立てて何かを計測したとき、気になってしまったのだ。
激しい動揺に襲われたHさんは、その場で大泣きをしてしまった。そして、その日から、泣くか、スマートフォンで「NT」「ダウン症」といった言葉を検索するほかは、何も手につかなくなった。医師からNTについて詳しい説明はほとんどなく、「確かなことは羊水検査をしなければわからない」とだけ伝えられた。そこで、もっと何か手がかりが欲しくてネットにすがりつくようになったのだ。