マタハラNet代表・小酒部さやかさんが企業を突撃取材する連載「小酒部さやかの突撃インタビュー “マタハラはなくて当たり前”の企業はココが違う!」。その連載では「マタハラの実態」についてはあえて触れず、マタハラを許さない企業の工夫について取り上げてきました。さて、こちらの新連載では、マタハラの実態に正面から切り込みます。前回までは3回にわたり、小酒部さんご自身が体験したマタハラについて詳しく伺いました。つらい過去を振り返り、詳しい話を聞かせてくださる取材相手の2人目は、マイさん(仮名)です。マタハラNetが月に1回開催している「おしゃべりCafé」で、経験したマタハラについて赤裸々に語るマイさんを取材しました。その内容を3回に分けてご紹介します。

マタハラを5年間受け続けた被害者から、マタハラNetに一通のメールが届いた


マタハラNetが月に1回開催している「おしゃべりCafé」でマイさんの話を聞く、小酒部さやかさん

 地方都市に住むマイさん(仮名)から、マタハラNet宛てにマタニティーハラスメントの体験談に関するメールが送られてきたのは、彼女が職場でマタハラを受け始めてから5年目のことだった。彼女は今、長期にわたるマタハラ被害から重度のPTSDとパニック障害を発症し、精神科に通っている。こう書くと、彼女をメンタル面の弱い人として想像する人もいるかもしれない。

 だが、実際の彼女の印象は全く違う。背の高い彼女は、セミロングの髪がよく似合い、コットンガーゼのチュニックとパンツスタイルがさまになる大人っぽい美人だ。話し方にユーモアと知性がにじみ、笑顔やしぐさにも愛嬌がある。誰からも好かれそうな「できる印象の女性」。実際、彼女はルックスや人柄が重要なある業界の最大手(ちなみに就職するには超難関企業)で働いていた経歴を持つ。

 マタハラNetで毎月開いている「おしゃべりCafé」に来てくれた彼女に、その場にいた誰もが好印象を持ったと思う。だが、彼女は、実は「その場に来ることすら、必死だった」らしい。精神科医からは「パニック障害が出る」と止められていた。それでも私達と話をせずにいられなかったのは、「他にも同じ思いをする人のために、何かしたい」という思いにかられてのことだった。優しい、努力家のマイさんという印象が強く残った。

 学校でも、前の職場でも、これまで常にマイさんは「頑張り屋」だった。彼女の父は、「マイが頑張っているから俺も頑張れる」と、いつもそう口にしていたという。

 苛烈なマタハラは、そんな彼女を追い詰めた。彼女は車の運転中、アクセルを踏んだ足が動かず、何度も車ごと川に飛び込みそうになったという恐ろしい経験を持つ。自殺を心配した妹と夫は、助手席にハンズフリーにした携帯電話を置き、運転中は常に声を掛けるようにした。彼女は運転中、妹や夫と話をしながら、自然にあふれ出る涙をどうすることもできなかったという。彼女の泣き顔をいぶかしみ、クラクションを鳴らす対向車もあった。そんな日々が、何カ月も続いた。

 彼女を追い詰めたものは何か。

 マタハラはどれほど深く心を傷つけるのか。

 そもそも、なぜ彼女は職場を辞めることができなかったのか。

 今回、彼女の体験に沿って、マタハラ問題の深淵を書きたいと思う。

次ページから読める内容

  • マタハラ被害者は、権利を主張し、周囲と対立する“ワガママな人”ではない
  • 2010年に結婚し、新しい町に引っ越し、就職したのがすべての始まり
  • 「仕事に慣れるまでの1年間は妊娠しないでね」
  • 数カ月後、先輩が妊娠し、仕事の肩代わりを強要されるように

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