「育児放棄」まではいかないけれど「未遂」くらいはいっていた

 “緊張が強くて、自分の意志とは無関係に全身の筋肉に力が入り、0歳にして背筋が浮かび上がり、腹筋が割れているほどの筋肉のつき方だった。自分に必要な酸素を確保するために、いつの間にか前胸部が深く凹み、一目見て漏斗胸と言われる状態になっていた。”(『あなたは、わが子の死を願ったことがありますか?』155ページより)

── 尚くんの生後10カ月の写真で、胸筋や腹筋が割れているのが衝撃的でした。

佐々 尚くんは起きている間はずっと号泣していて、しかも、全身に力を入れている状態なんです。どれだけ疲れるんだろうと思います。エネルギーの消費も激しかったので、全然太らなくて。

 泣いているときにどれくらい反っているか、先生にその映像を見てもらって薬の量を調整していました。そのために私達はビデオを買いました。普通は保育園や幼稚園の運動会のために使うんでしょうけれども、うちは発作を撮るために買ったんです。

 1日に100回以上、けいれん発作があることもありました。発作が終わると、それがいやだったからまた泣くんです。その繰り返しでした。ずっと見ているのがつらくて、時々、大きな事故にならないように注意して隣の部屋に引きこもっていました。「育児放棄」まではいかないけれども、「未遂」くらいはいっていました。

 だって普通の赤ちゃんの泣き声とは明らかに違って、苦しくてつらくて泣いているのが分かるから。朝から晩までずっと泣いていて、それを一人で見ているのが耐えられなかった。でも本人のほうがずっとつらかったと思います。

 ただ、寝ているときと、お風呂に入っているときだけは少し緊張が緩むんでしょうね。お風呂が大好きでした。時折笑顔を見せてくれました。ですから、家族でたくさん温泉へ行ったんですよ。

 もっぱら反りや発作を記録するために使っていたビデオですけれども、尚くんの2歳の誕生日、モンブランを食べているところを撮ったものがあるんです。

 尚くんは経管栄養でしたが、体調を見ながら必ず一口は口から食べさせていました。口から食べさせることのリスクもあったんですけど、でも食べられることは数少ない楽しみにつながると信じて、私は諦めなかった。ビデオに収められた幸せそうな表情を見ていると、諦めなくてよかったと思います

 食べたくてもうまく食べられなくて、口を開けると上に反ってしまったり、うれしくて笑っても体が反ってしまう。自分で自分の体をコントロールできなくて、意思とは無関係に動いてしまうんです。でもビデオを見ると、すごくゆっくりとだけれど成長していることが分かります。

 実は撮ったことさえ忘れていました。尚くんが亡くなって、お別れの会で流す動画を探していて、「ああこんな表情で、こんなふうに食べていたんだ」って見つけたときはすごくうれしかった。ビデオを買っておいてよかったと思いました。


2歳の誕生日のときにうれしそうにモンブランを食べる