音楽活動を開始してから7年間事務所に無所属だったにもかかわらず、渋谷や恵比寿など著名なライブスタジオでの公演が続々とソールドアウト。2014年、27歳でのメジャーデビュー後には全国ツアーの本公演をすべて満員にするなど、音楽ファンから大きな支持を集める個性派シンガーソングライター・大森靖子さん。デビュー直後に出産を経験し、仕事に子育てにと奮闘しています。

「常識を打ち破り、すべてを肯定する」「マイノリティーの気持ちを代弁する」独自の音楽性で人気の大森さんのキャリアと育児の日常をつづる連載。今回は、社会に広がる「イクメン」意識への違和感と、夫との育児の連携について等身大で語ります。

「イクメン」って、私の中では「ニンゲン」くらいの意味合いでしかない

 父親の育児のあり方について、「イクメン」「主夫」とどんどん新しい呼称が生まれているが、私にはどうもピンとこない。

 歌詞をつくる身でこのようなことを言ってしまうのはどうかとも思うけれど、わざわざ言葉で表現されるありかたのすべてが、言葉に落とし込まれた時点で既に古く、仰々しく、言い得て妙と思っても、言語化した時点でいつも真実とはすこしズレてしまうものである。

親が子育てをするのは自然なことなのに、「イクメン」という特別感ある呼称や使われ方に違和感を感じる
親が子育てをするのは自然なことなのに、「イクメン」という特別感ある呼称や使われ方に違和感を感じる

 ちょっとしたズレだとは思うけれど、“なんか引っかかってしまった”ということは、そこに自分の中の大切な何かが潜んでいる気がする。そもそも親になったんだから、基本的には親が子どもを育てるのは当然のこと。特にせっかく愛し合った二人の子どもなら、父と母「二人で」育児をするのって、どう考えても普通じゃないかと思う。

 だからイクジをするメンズ「イクメン」って、私の中では「ニンゲン」くらいの意味合いでしかない。

 でも今、その言葉が使用されている文脈では、育児を「手伝う」という意味における場合が多い。「え、そもそも育児って、父親はしない前提なん?!なんで?」感がなんとな~く、ある。

 「イクメンってかっこいい」的なキャンペーンをしなければ夫の育児参入への意識改革が図れなかったことがそもそも大問題なわけだけど、人の親になるって別にかっこいいことでもなんでもない。ただ単純に「全く分からない、未知のことを0からやっていく」っていうことだと思う。

 母親は生まれる前に妊娠期間として10カ月の間、肉体的に日々新しい命の存在を実感させられる。

 やらなきゃいけないことを直前までできないタイプの私は、母親でまじラッキーだった。知識がほとんどない状態から「親という自覚」を持つことについては、妊娠が分かった時期から父親も同じようにワクワクして、一緒に準備できていれば、二人でうまく同じタイミングで親としてスタートラインに立てるのかな、と感じている。