DVにおける「暴力」概念、間違っていない?
女性ライフサイクル研究所 西順子所長。臨床心理士
DVとは「Domestic Violence」の略です。1970年代に米国を中心としたバタードウーマン(被虐待女性)運動の中で生まれた言葉で、夫や恋人など親密な関係にある(あった)男性から女性に対して振るわれる、暴力のことを意味します。
特に1990年代から国際的な意識が高まる中、日本では2001 (平成13)年に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する 法律(以下、配偶者暴力防止法)」が施行、2002(平成14)年、2004(平成16)年、2008(平成20)年、2014(平成26)年に改正防止法が施行されました。
なお、配偶者暴力防止法においては、被害者を女性には限定していません。しかし、配偶者からの暴力の被害者は、多くの場合女性であることから、配偶者からの女性に対する暴力は、女性の人権を著しく侵害する重大な問題として位置付けられています。
注意したいのは「暴力」の定義。女性ライフサイクル研究所の西順子所長(以下、西所長)によれば、一般的には、たたく・殴る・蹴るなどの身体的暴力だけでなく、セックスの強要や避妊拒絶などの性的暴力、無視したり口汚くののしったり脅したり恥をかかせたりする精神的暴力、生活費を渡さなかったり外で働くことを禁じたり金銭的な自由を与えない経済的暴力、子どもを使って言いたいことを伝達したり子どもを取り上げると言って脅すなどする子どもを利用した暴力など、様々な形の暴力が存在しています。しかもこれらは社会文化的問題、つまり女性の地位の低さや女性差別、ジェンダーの問題など社会構造を背景としているため、被害に遭っている女性が誰かに相談したり助けを求めるのが難しいのだと言います。
NPO法人女性・人権支援センター ステップ(以下、ステップ)の栗原加代美理事長(以下、栗原理事長)は、「DVは関係性です。夫と妻の関係が主従関係になること、妻が奴隷化していくこと」だと話します。妻が自分の言いたいことを夫の顔色を見ながら恐る恐る話したり、夫が妻に「お前は頭が悪い!」「誰のおかげでこんないい生活をしてると思ってるんだ?」「死ねば?」などと暴言を吐いたり、家庭内で無視し続けたりすることもDVなのです。
ここで、米国ミネソタ州ドゥルース市のドメスティック・バイオレンス介入プロジェクトが作成した、「暴力の車輪(パワーとコントロールの車輪)」について解説します。
次ページから読める内容
- 8つの心理的暴力で被害者を支配していく
- 加害者は、虐待期とハネムーン期を交互に繰り返す
- 加害者は自分に暴力の責任はないと考えている
- 子どもにも身体的・性的・心理的虐待を行う危険性が存在する