身近な人ががんになった経験がある生徒への配慮も

 授業では、家族や身近な人ががんの治療中であったり、がんによって亡くなったりしている生徒に対し、心理的な配慮もしています。例えば以下のように声がけをします。

 「大切な人が、がんになったり、がんで亡くなったりした経験が、皆さんにあるかもしれません。友達が『小児がん』になったり、自分自身が経験者であったりする可能性もゼロではありません。だから、授業中にすごく悲しくなったり、つらくなったりしても全然おかしくありません。そのときは近くの先生に声をかけてくださいね

 また「生きるの教室」で学ぶ「がんの原因」などは、成人のがんを想定したもの。小児がんについては全く異なります。授業する前に、クラスに小児がんの治療中、あるいは既往歴のある生徒がいないかどうかの確認をするのと併せて、授業中に成人のがんと小児がんは異なることも伝える必要があるといいます。また、規則正しい生活をしていたからといって必ずがんが防げるわけではないこと、がん検診を受けても100%がんを発見できるとは限らないことも、きちんと話します。

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 参加した生徒からは「自分の周りに、がんになった人がいれば支えてあげたい。自分がなったときも誰かに支えられたいと思った」「今までは命があって当たり前だと思っていたが、もっと大事にしたいと思った」という意見などが寄せられました。

 授業を導入した学校の教職員からも「学生のときに、がんの正しい理解、がんと向き合う素地をつくることは、生徒の将来、生徒の家族にとってとても良いこと」「生徒にとって命の教育とセットであることが、より強く心に残ったのではないか」などという声が挙がりました。

 多くの中学生にとって、がんという病気について学ぶ機会はそう多くはありません。「特に、学校現場できちんと時間をかけて教えることは珍しかった」(バイエルホールディング広報本部の松井繁幸さん)といいます。このような授業を通じて、がんの正しい知識を身に付けたり、家族の健康について考える機会が持てたりすることは、中学生にとって貴重な体験になるかもしれません。

<関連サイト>
「生きるの教室」関連サイト(カリキュラムや教材が公開されています)
http://www.career-program.ne.jp/bayer/ikiru.html

(取材・文/砂山絵理子)