児童虐待対応件数が10万件突破 背景にある2つの要因
児童虐待の件数が増えている背景に「2つの要因がある」と松田さんは解説します。「1つ目の要因は、2004年から『面前DV(家庭内暴力)』が心理的虐待に当たるとして新たに対象に加わったことです。子どもの前で配偶者へ暴力を振るったり、暴言を吐いたりする行為自体が虐待としてカウントされるようになりました」。心理的虐待は、厚生労働省が発表した2015年度の速報値によると、児童虐待全体の47.2%を占めています。「2つ目は、『泣き声通告』を含め、市民からの通告が増えていることです」。
ここで松田さんに児童虐待の4タイプの定義を教えてもらいました。
松田さんは「世界のどの国でも、社会の児童虐待への対応は似た経過をたどるといわれています」と説明します。
初期は「児童虐待など、存在しない」と虐待を否定する時代。次第に、命に関わる身体的虐待が注目される時代が到来します。やがて、適切なケアを受けられない放置(ネグレクト)が子どもの発育・発達に深刻な悪影響をもたらすことを問題視する時代が来ます。ここまでくると虐待を通告したり、子どもを保護したりするための法律や対応が整えられるようになります。さらに、子どもを虐待する親は自分自身も不適切な養育環境で育ってきていることが多く、「親側も支援しなくてはいけない」という問題にも次第に光が当てられるようになります。そして、虐待の中でも特に性的虐待が子どもの心に非常に大きな影響を与えることが分かってくる、という順番です。
児童虐待対策で「予防」に勝るものはない
「虐待を受けた子どもは心に大きな傷を負います。幼いうちに適切な愛着ができていないと、その子どもの発育・発達に極めて大きな影響が出るため、我々のセンターでは虐待を受けた子ども達に愛着を修復させるためのプログラムを10年近く行っています。しかし……」と松田さんは続けます。「子どもの愛着を修復するのは実に大変なことです。ですから、児童虐待に対しては予防に勝るものはないと私は考えています」。
児童虐待と聞くと、叩くなどの暴力で体を傷つけることをイメージしがちですが、厚生労働省による定義によれば「言葉による脅し」も児童虐待に当たります。「親の話を聞かないのだったら家から出ていきなさい」「宿題をしないならごはん抜きにするよ!」などという言葉掛けが児童虐待として通告される可能性もあるわけです。
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