日記には「もうダメ」「無理」がいっぱい書かれていた

―― 子育てするうえで、一番大変だったことはなんでしょうか。

辻井 ピアノに関しては、最初のうちはレッスンに一緒に行って楽譜を読むのを手伝ったりしていましたが、それほど苦労はありませんでした。それより、日常生活で何かを習得するとき、例えば靴下を履くことにしても、見えていないからやっぱり小さいときは人の倍以上かかっていました。それをまずは根気よく教えて、今度は本人に実践させたときにどれだけ待っていられるか。「待つ」ということがすごく大変でした。

 そばにいると見ていられないから、途中から違う部屋に行っちゃうんですよ。「ごめーん、私もお化粧しなきゃいけないからね」って。それでそっと覗きに戻り、「あ、片方履けたな」と確認したりして。私が手を出せば簡単に済んでしまいますが、それではいつまで経ってもできるようにならない。急かすのではなく、朝、早く起こして、支度をする時間に充てていました。

―― 見守る心の余裕が、親にも必要だということですね。

辻井 正直、余裕もなかったですけどね。とにかく24時間子どもと向き合う日々で、「これは大変なことになったなあ」っていう思いもありました。伸行が生まれて5歳くらいまで日記をつけていたんですが、「もうダメ」とか「無理」とかいっぱい書いてあるんですよ。成長の記録の他に、自分自身のやり場のない「どうしたらいいんだろう」という気持ちを日記に書くことでスッキリしていたようなところがありました

―― 自分の心の中だけにとめておかないで、気持ちを外に出す作業は大切ですね。周りと比べて不安になったりもしましたか?

辻井 そうですね。ただ、私はあまり人と比べるということをしませんでした。近所にも伸行と同い年の子はいましたが、皆さん健常児だから発達も早くて。うちは言葉も遅かったし、色んな部分が遅いと思っていましたが、これはこれでいいのかなと。

 人と比べてできないことを嘆くよりも、楽しくできている部分、例えば音楽に関しての彼のいい部分があったらそれを伸ばしたほうがいいと信じながら、子育てをしていたように思います。

(文/谷口絵美)