2009年にアメリカの「ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール」で日本人としては初めて優勝し、国内外で活躍するピアニストの辻井伸行さん。その母、辻井いつ子さんは、生まれつき目の見えない伸行さんに宿る音楽の才能を見つけ、常にそばで見守り続けました。伸行さんの演奏と曲にまつわるエッセーで親子の歩みをつづる『今日の風、なに色? CDブック』(アスコム)では、伸行さんとの心温まるエピソードを母の目線で語ります。「褒めて、信じて、伸ばす」子育てを改めて振り返ってもらったインタビューを、上下2本の記事でお届けします。

【インタビュー下編】
辻井いつ子 どんなときも「あなたの演奏はすごい」

辻井いつ子さん
辻井いつ子さん

辻井いつ子
1960年、東京生まれ。東京女学館短期大学卒業後、フリーアナウンサーとして活躍。86年に結婚、88年に長男・伸行さんを出産する。生後まもなく全盲と分かった伸行さんが生後8カ月のときに音楽の才能を見つけ、以来二人三脚でピアニストへの道をサポート。現在は自身の子育て経験をもとに講演活動を行う一方、2015年4月からTBSラジオ『ミキハウスpresents 辻井いつ子の今日の風、なに色?』でパーソナリティーも務める。2016年7月に伸行さんのピアノ演奏にエッセーを添えた『今日の風、なに色? CDブック』(アスコム)を発売。

楽屋でものんびり「普段通りに楽しくやればいいんじゃない」

日経DUAL編集部 今日(※取材を行った7月上旬)はパーソナリティーを務めるラジオ番組の収録があって、ゲストが伸行さんだったそうですね。

辻井いつ子さん(以下、敬称略) 番組で伸行と共演するのは初めてでしたが、小さいころのことと、両親や尊敬している先生への思いなどを話してもらいました。「小さいときからあまり怒られずに、ポジティブ思考で褒めて育ててくれたのが非常によかった」と話していました。

―― ポジティブ思考の子育てですか?

辻井 コンクールの前って、精神的に緊張するし、動揺するものですよね。楽屋でも、本番ギリギリまでお母さん方が「しっかりやらなきゃダメよ」とか「絶対間違えちゃダメよ」とか出番待ちの子どもに言い聞かせているのを見ました。でも私達は、「普段通りに楽しくやればいいんじゃない」と言いながらのんびり待っている感じ。「そのおかげでプレッシャーもなくやって来られたから、うちのお母さんのキャラはなかなかいいと思う。助けられたところもある」と言っていました。

―― 伸行さんは小さいころ、どんな性格のお子さんだったのですか?