『魔女の宅急便』作家の角野栄子さん。結婚後、夫婦二人でブラジルへ2年間移民。大きな経験を経て日本に戻り、落ち着いたころに女の子が誕生します。貧しくも新しい出会いに心をときめかせ、自由に溢れた夫婦の暮らしから一転。幼子と二人でほぼ1日を過ごす生活は、角野さんにとってとても大変なものだったといいます。

母子二人きりの毎日の中で、一筋の光のように出合ったのが「書く」ことの楽しさ。その後、作家としてデビューするまでの7年間、娘との時間を大切にしながら、自分自身の楽しみのために文章を綴り続けました。今回は、子育てをする中で角野さんが得た言葉や、支えにした言葉を伺っていきます。

母の記憶がないまま母親になった


『魔女の宅急便』の生みの親、児童文学作家・角野栄子さん

日経DUAL編集部 かつて夫婦で暮らしたブラジルのリオ・デジャネイロから名前を取った、お嬢さんのリオさん。リオさんが14歳になったときに、お二人でブラジル旅をしたのが、『ブラジル、娘とふたり旅』(あかね書房)という作品にもなっていますね。

角野さん(以下、敬称略) まあ一応名前も取っていることだし、リオ・デジャネイロの街を娘にも見せたい、と思ったんですよね。

―― この作品は挿絵をリオさんが描いた親子合作ですよね。本の中では二人であちこち旅しながら、思春期の娘さんの心の動きを一緒に楽しむような、型にはまらない角野さんの子育て風景が垣間見えました。「対等な親子関係で素敵だなあ」と思って読みました。

角野 あら、対等過ぎるのもあまり良くないんですよね。親の権威がなくなる。年を取ってくると、私より娘のほうが強くなっちゃって困ります。あのね、私は親としては、もう全然自信がないの。自慢できない。

―― え!? どうしてそんなふうにお思いになるんですか?

角野 私には母親から受け継いだ歴史がないんです。5歳のときに母を亡くしているの。だからお母さんに育ててもらった記憶がないんです。母親になると、みんな多かれ少なかれ自分のお母さんにしてもらったように育てるところがあるでしょう。でも私はそれを本を読んだりして、全部、自分で考えなければならなかったの。だから、余計に力が入り過ぎてあんまり娘をうまく育てられたとは思えないんですけど。

次ページから読める内容

  • 幼子と二人きり。“陸の孤島”みたいだった
  • すべては「何、言ってるの。君が書くんだよ」から始まった
  • 自分でもビックリするくらい、「書くことが好きだ!」って思った
  • 人に認められるものではなく、自分が自分を認められるものを探せばいい
  • 自分の内側にある「面白いライン」だけを頼りに
  • 幼い日に父親に聞かせてもらった物語が原点

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