入院中に、「家に来てくれる出張FP」として独立を決意

羽生 FPを何人も抱える会社は、当時まだ珍しかったと思いますが、ご自分で探されて?

前野 受講していたスクールの講師の先生に合格報告と御礼のメールを送ったら「うちに来る?」と言っていただけたんです。ソッコー、「行きます!」と返しました。2001年から07年までの6年間、そちらでお世話になりました。その会社は主に講演と研修を運営しているところだったので、講師として話しに行ったり、原稿を執筆したりする仕事をやっていました。毎日すごく面白くて、やっと天職に出会えたような感覚がありました。楽しいから突き進む一方で、事務所に泊まることもいとわず夢中で働いていました。

羽生 ハードワーカーだったんですね。若い頃には、そういう時期、あってもいいですよね。

前野 そう思います。限界を知っているから、「ここまでは大丈夫」という基準が分かることもあると思うので。私もついに限界が来て、ある日、ものすごい胃痛に襲われて即入院。結局原因不明だったのですが、「ああ、これはもう無理だという体のサインなんだ」と我に返りました。仕事はいつまでもやっていたいほど楽しいけれど、10年先も同じように働けるかというとムリ。FPとしては、講演も、執筆もやらせていただいたけれど、唯一経験が少なかったのが相談を受ける仕事でした。

 同じ事務所の先輩が相談を受けるのを見ていると、赤ちゃん連れのご夫婦がいらっしゃるんです。育児が始まるタイミングって、人生最大のターニングポイントだから、やっぱり子育て中の若い夫婦のご相談って多い。でも、赤ちゃんはどうしても泣きだしてしまうから、夫婦そろって聞いてほしい大事な話題の時に限って、パパかママのどちらかがあやしに行ってしまう。事務所には他のスタッフもいるから、どうしても遠慮されちゃうんですよね。そういう光景がなんだかとても気になっていて、入院中にぼんやりと考えている時に「じゃあ、私が訪問すればいいんじゃない?」と。事務所を構えなくても開業できるし、ニーズが見込める層だし、「うん、できる!」と病院のベッドで決意しました。

羽生 「家に来てくれる出張FP」というのは、たしかに子育て中の世帯にはニーズがありそうです。

前野 ネックは一つあって、「子どもがいない私が、子育て中の方々の悩みを解決できるのだろうか?」という不安。でも、私の治療にあたってくれていたドクターや看護師さんの姿を見て、思い直しました。医療も「経験しないと治せない」ということはないのだから、お金のコンサルティングも同じことだと。パートナーにも意志を伝えて、34歳の時に独立しました。(後編に続く)

(文/宮本恵理子 写真/鈴木愛子)