保育士の声が上がってこないのはなぜか

 ではなぜ、保育士から不満の声があまり上がってこないのでしょうか。最大の理由として雨宮さんは「声の上げ方が分からなかった、また、声を上げる機会がなかったからではないでしょうか」と言います。「私も現場に不満があったときは仲間うちで話すぐらいでした。いわゆるグチ程度のものです。また、保育士は現場で何か課題があってもまずは自分で解決しようと考える人が多く、第三者に伝えることはしない傾向があるような気がします」

 みんな悶々としている。だからこそ保育士同士で直接触れ合って考えていることを共有したい。そんな思いから、雨宮さんは保育士向け、保育士を目指す学生向けのワークショップを起業当初から続けています。

 「起業した当時は今ほどSNSも発展しておらず、私達の活動も知られていなかったため、集客に苦労しました。ぜひ来てもらいたいと知り合いの保育士に声をかけると『ワークショップって何? いったい何をするの?』と怪しまれて断られ、最初は落ち込むこともありました。ウェブサイト中心の事業ですが、やはりネットだけだと、どうしても一方的になってしまう。リアルなネットワークも作りたいという強い思いがあったので続けました」

 そして2014年には雨宮さん自身も妊娠と出産を経験することになります。

 「それまで自分が園で預かってきた大勢の子ども達一人ひとりの背景に、出産時のエピソードなどそれぞれ数えきれない物語があるのだと改めて認識しました」

 その思いを背景に、妊娠前後には、保育士希望の学生向けワークショップに新しい試みを加えました。ゲストとして母親数名を呼び、それぞれに出産のエピソードを生々しく語ってもらい、産後の母乳回数や体重の増減を記した記録などを通して、未来の園児達の背後にある物語を想像させるきっかけを作ったのです。

 「保育士として保育園に行けば子どもの存在は当たり前。保育園現場で個々のお母さん達から出産のエピソードを聞く機会はなかなかありません。でも、妊娠中や分娩、新生児期の様々な出来事を乗り越えて、子ども達が今保育園に来ているという事実を知っているのと知らないのとでは、子どもとの関わり方、親との関わり方が全然変わってくるはず。この重みを未来の保育士にも感じてほしいと思いました」。この試みは学生からも好評だったといいます。