「月給が5万円上がっても保育士に戻る気はない」

 「例えば私達が病気になったときに病院に行くのは、医者や病院に対して『ここに行けば安心』という絶対的な信頼があるからですよね。保育園も同じです。愛するわが子を託して仕事に行くのは親として後ろ髪引かれる思いがある。でも、『保育園に預ければ安心』という絶対的な信頼があるから大切な子どもを預けられる。この『安心』は大前提です」

 「保育士も医療従事者と同じように命を託されています。園では乳幼児突然死症候群の危険性があるため、年齢に合わせて昼寝中、5分おきに呼吸を確認するという配慮をしていたり、アレルギーのある子どもが増えている中、誤食という命に関わるリスクを考え対策を取っていたり。また、事故につながりかねない予想外の動きもある中で、できる限り子ども達が様々な体験ができるような配慮を行っていたりと、毎日、命と向き合いながら朝から晩まで神経と体力を使っています。保育士はまさに子どもの人生を左右するともいえる重要な仕事なのです」

 まだ一人では生き延びることのできない年齢の子どもの命を預かるのは重責です。普段当たり前に享受している「保育園の安全」を支えているのは、一人ひとりの保育士の緊張を伴う長時間労働。にもかかわらず、医療従事者と比較すれば、給与や社会的地位は決して高いとはいえない現状があります。

 一方、それだけの重責を担う職業だからこそ、保育士側も専門性を磨き続ける努力が必要です。「でも残念ながら忙し過ぎて、保育士がその専門性や高い価値を担保するための努力をし続ける余裕がないところまで追い込まれている現場もあります。ゆとりのある職場環境をどうやってつくっていくかも課題だと思います」。

 雨宮さんの友人で、離職した保育士の一人は「月給が5万円上がっても保育士に戻る気はない」と話したそうです。「例えば自分が昔すごく大変な職場にいて、転職した今バランスの取れた職場で働けているとしたら、『月給を前より5万円多く払うから戻ってきて』と言われても、環境が変わらない限り、たぶん戻らないですよね」