「写真投稿」という新しいカルチャーを育てた

 掲載した遊びのうち、500~600個は雨宮さん自身で考えました。

 「当時、保育士経験が6年しかなかった私一人でも、これだけの数の遊びの“引き出し”がありました。もっとたくさんの引き出しを持っている保育士や元保育士の方は大勢います。そもそも、それほど長い経験のない私が『支援』というのもおこがましいこと。遊びのアイデアをみんなでシェアできれば、さらに遊びや保育の世界が広がるはずと考えました

 そんな雨宮さんのアイデアが結実したのが、遊びの写真にコメントをつけて投稿できるアプリ「ほいくる」です。しかし現在の形になるまでには、時間がかかりました。

 「プライバシーの問題もあるので、保育業界には写真を撮って共有するという文化はありませんでした。そこでまずは写真を撮って保存・整理するという新しいカルチャーを作り出すところから始める必要がありました」

 最初は抵抗感の少ない、自分専用のアルバムを管理できるアプリとして提供。それからキャンペーンと銘打ち、投稿を募集。「アルバムに写真をためる」という行為から「写真投稿」を徐々になじませていく手法を取りました。

保育士支援アプリの「ほいくる」
保育士支援アプリの「ほいくる」

 じっくりと文化を醸成した結果、現役の保育士などからの写真投稿が少しずつ増え、今では遊びのアイデア写真2万枚以上が蓄積されるまでに至りました。現在では「非公開」「アプリ内で共有OK」「サイト内で公開OK」などから選択が可能。懸念された個人情報問題については「写真に名前や園名、顔が写り込むことのないよう、常にチェックできる体制で管理しています」と雨宮さんは話します。

 また、資格は持っているけれども現場を離れている「潜在保育士」の能力も活用しています。潜在保育士や子育て中のママを「ママくるライター」として認定し、記事の執筆を委託しています。ほかにも、季節別の行事の解説や、自由に使用できるイラストカット集、保育用語集など保育士が日常業務を軽減できる情報をそろえています。すべて利用は無料で、今や日本の保育士約42万人の6割以上がこのサイトを利用しているといいます。

ここは何をしてくれる場所なんですか?

 雨宮さんは「『ほいくる』をただの便利なだけのサイトでは終わらせたくない」と力強く語ります。「ほいくる」を運営する株式会社キッズカラーには、大きなミッションがあります。

 「『保育』という言葉は『育ち』を『保つ』と読めます。子どもが本来持って生まれた『育つ力』はとてもすごいもの。大人が上から何かを教えるのではなくて、子どもの育つ力を邪魔しないことが大切だと考えています。では、どのようにすれば『育つ力』を『保てる』のか。『うまくやるための大人の助言』ではなく、子どもの『やってみたいがあふれる環境』をたくさん生み出したいのです

 その実現のために、自社オフィスを月に1~2回無料で親子の遊び場として開放するという、手間暇のかかる取り組みにも挑戦しています。