総務省が2010年に行った「国勢調査」によると、保育士全体のうちの男性保育士の割合は約2.5%。男性保育士の数は増加しているものの、まだ少数派であることが数値からも分かります。女性が圧倒的に多い職場で、男性保育士が感じている不便や苦労、強みは何か。東京都港区内の公立保育園で子ども達の「健やかな発達・成長」を支える保育のプロ・菅原俊(たかし)さん(37歳)に話を聞きました。

■(下)保育士から起業の3児の母 子育てと夢への挑戦

古い園では、男性用のトイレや更衣室がない場合も

日経DUAL編集部 専門学校卒業後に障害者施設で働いた後、公立保育園に勤めて現在13年目である保育士の菅原さん。現在働く保育園に男性保育士は何人いますか?

都内の公立保育園で働く保育士・菅原俊さん。入社以来、約30人のスタッフのうち男性は1~2人という職場環境で働いてきた
都内の公立保育園で働く保育士・菅原俊さん。入社以来、約30人のスタッフのうち男性は1~2人という職場環境で働いてきた

菅原俊さん(以下、敬称略) 私の園は今年新規採用が入り、僕も含めて男性保育士は2人です。港区の保育園の場合、男性保育士は1園に1~3人程度です。

―― 保育士としては「中堅」から「ベテラン」と呼ばれる層へ向かう菅原さんですが、保育士になった当初は女性に囲まれた職場への戸惑いはありませんでしたか?

菅原 私は、永遠の若手のつもりでいますけど(笑)。専門学校時代から周りに女性が多い環境だったので、心の準備はできていました。ただ、10年前は今より男性保育士も少なく、保育園には基本的にトイレも更衣室も女性の分しかないということは多かったですね。今の園は新しく建て替えているので、トイレは男女兼用で男子・女子ともに更衣室があります。でも、前任の園は古い建物で更衣室もなかったので、着替えのときは「着替え中」という札をドアに掛けたりしていました。

―― 男性は少数派なうえに、特に新人時代、ほとんどの保護者は年上という環境。仕事をするうえでの苦労はなかったのでしょうか。

新人時代、「子育てをしている」という経験が強みになった

菅原 長男が1歳のころに保育士の現場で働くようになったんです。年齢はお母さん達のほうが上ですが、同じ子育て世帯。そこが私の強みだと思い、「私は今、皆さんと同じくらいの子を育てています」ということをすぐに言いましたね。保護者会のときなどに、共通の話題があったことは人間関係をつくるうえでとても大きかった。自分も子育てしているということで、男性保育士という色眼鏡で見られるのを和らげられたと感じています。

―― 女の子の保護者の中には、男性保育士を敬遠する人がいるという話を聞いたことがあります。性別に関係なくそれぞれの良さや個性があると頭では分かっていても、新年度など保育士と保護者とのコミュニケーションが浅い時期には、漠然とした不安を感じてしまうことも。菅原さんは、実際に保護者から同様のことを言われた経験はありますか?

菅原 子育て中だったということもあってか、私自身は言われたことがありません。でも、「男性保育士がオムツ替えをしたり、シャワーをしたりするのは抵抗がある」と言われた職員は実際にいると、他園の保育士から聞いたことがあります。感情的な部分ですし、人それぞれ価値観も違うので「抵抗がある」という感情は尊重しなければいけないと思っています。ただ、きっと多くの男性保育士がそういった気持ちを理解した上で、保護者の方に信頼されるように頑張っていると思いますので、本人の人間性をしっかり見てもらえたらうれしいです。

「家庭でもお父さんとお母さんがいるように、保育士は保育園でもそういう立場でいます」と菅原さん。子育て経験が何よりの強みに
「家庭でもお父さんとお母さんがいるように、保育士は保育園でもそういう立場でいます」と菅原さん。子育て経験が何よりの強みに

【次のページからの内容】
・生理的に抵抗を感じてしまったら、どう伝えればいい?
・男性保育士、3つのタイプと強み
・子ども達のきれいな目を見て、保育の道へ進むことを決めた
・家庭の子育てはフリースタイル、保育の仕事は持ち込まない