―― その気持ち、分かります。虐待は絶対にいけないというのは誰しも理解しているけれど、子育ては思い通りにならないことの連続。虐待寸前になるお母さんって、実は多いんじゃないかな、と思います。そもそも、こうなってほしいなという「思い」があるからこそ、ふとしたことで怒りにつながってしまう感情がある。「一歩間違えば、私も……」という瞬間がなかったといったら嘘になりますもん。振り返ると、子どもだけが原因であることはほとんどありません。結局、夫婦関係や自分の仕事上のストレスなど、親の理由で子どもにイライラして当たっていただけなんです。

男性は、浮気を家庭に持ち込まないでいただきたい

―― この作品の中では3家族がそれぞれに問題を抱えています。シングルマザーの加奈は、出産後すぐに夫から「好きな人ができたから離婚したい」と言われ、養育費も慰謝料もなく捨てられます。そのため、朝も夜もバイトに明け暮れて、大好きな息子の「勇」と過ごす時間もない。

 あすみは専業主婦でとても幸せなのだけど、8歳の「優」が実はものすごく心に闇を抱えているということが分かって……。さらにはこの家の夫も浮気をしていた。

椰月 そしてそれが優にバレるんですよね。

―― あのシーンは鳥肌が立ちましたよ。

椰月 男性には浮気を家庭に持ち込まないでほしいですよね。基本的に優は、とても頭がいい子で。だからこそ父親の浮気を見抜いた。こういう子もいるだろうな、と思って描きました。

「男親がしっかりしていたら虐待なんて、起こらないんじゃないか」

―― さらに、共働きの留美子のところは、夫の収入が途絶えてしまいます。それもよく聞く話です。

椰月 日経DUAL読者のように、共働きの家庭でも子育てに関するほとんどの部分を母親が担っているという家庭が多いと思うんですよ。男性は「仕事が忙しい」というけれど、ではもし仕事がなくなったら果たしてちゃんと育児や家事をやるんだろうか、と。保育園や学校の持ち物を準備するとか、そういう細かいことを男性だってできないはずはないけれど、やらないケースのほうが多いんじゃないかなあ、と思ったんです。

―― 育児や家事が“お母さんだけのお仕事”になってしまっている家庭はまだ多いです。夏休みに留美子が仕事で、夫と子ども達だけで実家に帰るシーンがありますが、夫の豊は車の運転だけして実家に着いたら何もしないんですよね。義理の実家でも自分の実家でも、ひとたび帰省すると夫は何にもしない。動くのは妻のみ。わが家のようです(苦笑)。

椰月 私も、今、思い出しただけでイライラしてきました(笑)。女性だったら帰省したら手伝いもして、運転して、帰ってきた途端洗濯機を回して夕飯の準備をします。当然。

―― 書いたご本人が思い出してイライラするってすごい(笑)。でも分かります。そして、もしそうしたところに虐待の原因があるとしたら、それは子どもが夫婦間の問題の犠牲になっている、ということですよね。