食べ物や周囲の人々、祖先への感謝 今だからこそ「仏教保育」を行う意味

 園の母体である妙福寺は、平安時代から続くお寺で、当初は天台宗だったが750年ほど前に日蓮宗に改宗。昭和30年から保育園を始めた。幼稚園ではなく、当時まだ珍しかった保育園を選んだのは、周囲に農家や商店など家族ぐるみで働く人が多く、これからは女性も働き続ける時代であり、預かる間子ども達に少しでも豊かな教育をしたいという当時の住職の考えだったという。

 子ども達は親から、そして「仏様から預かった大事な命」と考え、保育に取り組み、その子達をどのように導くかを重い責任としていつも考える、と妙福寺の住職も兼ねている園長は話してくれた。

園のすぐ裏にある本堂。一転して静かで落ち着いた空気になる
園のすぐ裏にある本堂。一転して静かで落ち着いた空気になる

 「この地域のお寺として古くから地域に密着し、今でも檀家さん約600軒を抱えます。ほとんどの家庭の家族構成から先祖まで把握しています。中には、この園に子ども、孫、ひ孫と通わせてくださっている家族もいます。園に通わせているいないに関わりなく、多くの檀家さんや地域の方が、お寺を愛し、園を守ってきてくださった。そういったことを知って、預けること、働くことに感謝してほしいと保護者の方にはお伝えしています。この園を支えてくれているそうした方々と祖先に感謝し、年3回の保育園の全体会の前には必ず全員で黙祷を捧げます」

 そうした感謝の気持ち、「ほとけの子」として子ども達を大事にする気持ち、それが園の保育に強く反映されている。

 毎週月曜日の朝、子ども達は全員で本堂に礼拝に向かう。そして、感謝をし、1つ1つの命を大事にし、いい子になりますと“のの様”=仏様に約束をする。食事をする前や月に1回のお誕生日会など、感謝やお祈りは子ども達の日常の節目節目にある。

 年間の行事には、涅槃会や精霊祭り、宗祖降誕会など、仏教にまつわるものもある。昨今、お寺が運営する保育園でも仏教色を出さないところが増えている中で、この園では子ども達の日常とともに仏教があることを大事にしている。

 「もちろん宗教を強制するのではありません。しかし、毎日、食べ物や周囲の人々、祖先に対し感謝の言葉を繰り返すうちに、今は意味が分からなくても、ある日それが子どもの中で自然と感謝の気持ちや命を大切にしようという思いとして根付くと信じています」とその理由を園長先生は語った。

 保育目標の「感謝の気持ちを持てる子」「互いに協力し助け合う子」「のびのびとした明るい子」も、そうした日々の積み重ねに現れているのだ。

プールに盛り上がる子ども達。保育園の日々が楽しそうなのが伝わってくる
プールに盛り上がる子ども達。保育園の日々が楽しそうなのが伝わってくる