自分の理想は押しつけず、「いっぱい一緒に旅しようね」

―― そう思えるようになったのは大人になってから?

白木 そうですね。やっぱり反抗期のころなどは、「なんで自分の夢を追いかけなかったの?」ってすごく思っていて、母にも言っていたんですよ。「なんで外に働きに行かないの? せっかく自分の力でデザイナーになったのに、どうして家の中にばかりいるの? 私はもっとお母さんに輝いてほしいの」って。

「なんで自分の夢を追いかけなかったの?」と母親に反発する気持ちがあった時期も。大人になり「母の決断する強さを尊敬し感謝しています」(白木さん)
「なんで自分の夢を追いかけなかったの?」と母親に反発する気持ちがあった時期も。大人になり「母の決断する強さを尊敬し感謝しています」(白木さん)

―― そういう娘の訴えに、お母さんはなんと答えていたのですか。

白木 色々言っていたんですけど、一番印象に残っているのは、「惚れた弱みだから仕方ないのよ」という言葉です。そんなに夫婦仲がいいようには見えなかったんですけど(笑)。惚れた弱みって言えてしまうのが、すごいなと思って。それだったら仕方ないなと思うようになりました。

―― 子育てで気をつけていること、目指していることは何ですか。

白木 私の理想を子どもに押しつけてはいけないと、いつも思っています。だから時々、保育園の他の子が字を上手に書いているのを見たりすると、「あ、うちの子はまだできていないな」と思って、つい何か娘に言いそうになるときがあるのを、「あ、ダメだダメだ、これを言ったらダメだ」と、母を反面教師としています(笑)。

 娘に対しては、「将来、ちゃんと自分で稼げますように」と願う気持ちはあります。あとは、幸せだったらいいのよ、好きなことをたくさん見つけようね、いっぱい一緒に旅しようね、と話しています。友人がオランダで結婚式を挙げるので、それに参加するために初めて海外にも2人で行きました。オランダとドイツに住む友人達と母娘で再会できて楽しい思い出になりました。

自分で選び、自分の意見を言えるようになるといい

―― グローバルな人間を育てたいという思いはありますか。

白木 そうですね。世界中どこにいても、色々な人に愛されて、楽しく生きてくれたらいいな、と思います。なるべく色々な価値観に触れさせて、色々な話をして、色々と考えさせたいなとも思っています。それから、自分で判断させるということを、心がけていますね。自分で選んで、自分の意見を言えるようになるといいなと思って。

 とにかく、娘といるときは、自分の仕事はせずに彼女の世界の中で考えることを積極的にしようと思っています。……まだまだ全然できていないんですけどね、がんばります(笑)。

産休中に社長権限を委譲する時期が来たことを知る

―― HASUNAを立ち上げて8年。その間にお子さんも生まれ、何がどんなふうに変わりましたか。

白木 子どもが生まれて産休を取ったことをきっかけに、思い切って自分の仕事の大半の権限を委譲することにしました。それまではジュエリーのデザインに始まり、すべてを自分で抱え込んでいたのですが、産休中に「そろそろ時期が来たのかなあ」とごく自然に思えたんです。社長がいなくても組織がきちんと回っていくのが理想的な組織だと、今は思っています。

以前は、ジュエリー制作に関するほとんどを自分で抱え込んでいた白木さん。出産を機に権限を委譲したことで、新たな新事業の展開も
以前は、ジュエリー制作に関するほとんどを自分で抱え込んでいた白木さん。出産を機に権限を委譲したことで、新たな新事業の展開も

 そうやって権限を委譲したことで、私自身、新しい挑戦ができるようになりました。ここ半年ほどは、新事業の展開にも注力しています。さらに、他の起業家やスタートアップを軌道に乗せるサポートにも力を入れています。

 会社の社長としては、目の前のオペレーションではなく、10年先のことを考えて引っ張っていきたいなと思っています。そのためにも、なるべく広い視野で物事を考えられるように他の業界の色々な方と会うようにしています。

―― いつも、新しいところに飛び込んでいく勇気があるのですね。

白木 実際に自分の目で見ないと納得できないだけなんです。すごく頑固なんですよね。これは、祖父の影響かなと思っています。HASUNAを立ち上げる前も、ジュエリーの素材を鉱山から直接仕入れるなんて「無理だ」と人にいくら言われても、「実際にやってみたらできるかもしれないじゃない」と考えちゃうんです。