大切なのは、事実を知った現役世代が身近な高齢者と話すこと

 本書に書かれているのは、深刻な問題だけではありません。何をどのように解決していけばよいのか。そして、そのための一歩をどう踏み出せばよいのか。私達子育て世代の行動を促す情報が詰まっています。

 大切なのは、事実を知った現役世代が、高齢者にも事実を知ってもらうため、身近な人と話すこと。つまり、高齢者自身に事実を知ってもらうことが必要なのです。私自身、実家の母と社会問題について話す際、年金問題についても話すようにしています。母は介護ボランティアや街づくりなど、子育てを終えた後、地域活動に取り組んできました。住んでいる市の財政改革委員に任命された際、「どう思う? 意見を聞かせて」と母は私に尋ねました。

 このとき私はシルバー民主主義の問題を話しました。母の世代は持ち家世帯が多く、贅沢しなければ、年金の範囲内で、夫婦がある程度のゆとりを持って生活することができます。「私達の世代はそうはいかないし、孫の世代はもっと大変なんだよ」と話したら「そういえば、この地域は子どもの貧困や生活保護の問題が大きいと聞いたわ」という答えが返ってきました。

 母は小学校教師の仕事を結婚退職し、私と弟を一生懸命育ててくれて、中高生のときはお弁当を作ってくれ、受験勉強を応援してくれました。家計を節約して子ども達の学費や仕送りに充ててくれた母がパスポートを持ったのは、ごく最近、夫婦で台湾旅行に行くためでした。

 子どもが巣立って20年近く経ってようやく旅行などを楽しみ始めた母に「シルバー民主主義」と言ったら、傷つけるのではないか……という心配は、私にもあります。でも、母のことを信じているから本当のことを話し合いたい、と思います。もし、必要な政策によって、うちの両親の年金がカットされて生活が厳しくなるなら、私が親に仕送りをします。それが、公平な世の中のありようだと思うからです。