年金受給年齢の引き上げに踏み切ったオーストラリアから、私達は学べるか

画像はイメージです(撮影/鈴木愛子)
画像はイメージです(撮影/鈴木愛子)

 より詳しい内容は本書をお読みいただくとして、この問題を解決するためのヒントをご紹介します。

 本書では、日本と同程度の高齢化に直面しつつ、年金受給年齢の引き上げという対処をしたオーストラリアの例が紹介されています。長生きが当たり前の社会では、高齢者全員を弱者とみなすことはできません。元気に働ける人は年齢に関わりなく働き、能力を生かして収入を得られるよう、雇用制度と年金制度を同時に変えていく。それができれば危機は回避できる――。このように、本書に示される解決提案は具体的です。

 今回、八代先生はDUAL読者向けに、次のようなメッセージをくださいました。

 「シルバー民主主義の問題について、家庭内で親世代と話し合ってみればどうでしょうか? 公的年金は過去に積み立てた保険料の取り崩しだと誤解されていることがよくありますが、実際は長寿化に対応しておらず、鈴木先生(学習院大学経済学部教授の鈴木亘先生)の示したような膨大な世代間移転があることを理解してもらうことが大事かと思います」

 年金保険料と給付額、つまり払った額と受け取れる額のバランスを世代ごとに比較した表が、本書P.102に掲載されています。そこには、厚生労働省の1994年と2015年の試算に加え、鈴木先生の試算が表になっています。若い世代ほど損をする仕組みになっていることが分かります。

 大事なことは、高齢者自身の利己主義に訴えること。今の制度は、高齢者の短期的な利益を考えているだけで、長期的な利益は考えていません。借金頼みの社会保障給付を続けていれば、いずれ年金制度が立ち行かなくなるかもしれません。それでは、高齢者自身も困るのです。

 もう一つは、高齢者の利他的な心に訴えることです。本書の終わりに、このような記述があります。

“日本の高齢者は、正月に孫にお年玉をあげることを楽しみにしている。逆に、孫のお年玉を取り上げるような高齢者は、およそ考えられない存在である。しかし、家族の中では起こり得ないようなことが、現に日本の社会保障制度では生じている。政治の世界では、応分の負担を示さずに社会保障の充実を唱え、子どもや孫の世代に多額の借金を背負わせる政策が当然とされている。”(P.P187~188)