政治の高齢者優遇を解消すれば、日本が直面しているほどの大問題は起きない

5月に刊行された『シルバー民主主義』(中公新書)。分かりやすいデータと記述で、高齢者優遇の日本政治の問題を解説しています
5月に刊行された『シルバー民主主義』(中公新書)。分かりやすいデータと記述で、高齢者優遇の日本政治の問題を解説しています

 繰り返しになりますが、ポイントは高齢者そのものではなく高齢者優遇の政治がもたらす歪みです。逆に言えば、高齢者が増えても、政治が高齢者優遇にならなければ、今の日本が直面しているほど大きな問題は起きないのです。

 シルバー民主主義のもたらす問題について、本書は年金などの経済問題、家族政策など社会問題を多角的に論じています。この記事では年金問題に特化してご紹介しますが、選択的夫婦別姓やフランスのPACS(*1)など、家族の在り方に関心をお持ちの方にもおすすめしたい1冊です。

 本書で示される、高齢者優遇問題のメカニズムを見ていきましょう。

1) 高齢化により、投票者に占める高齢者割合が増加

 日本の有権者に占める60歳以上の高齢者の比率は、2010年の38%から2050年には52%まで増えるそうです。加えて、高齢者は投票率が高いため(60歳代で68%、20歳代で33%)、政治に与える影響力は大きくなります(P.11)。

2) 政治家は高齢者に短期的な不利益となる政策を実行しない

 高齢者の「政治に期待するテーマ」のトップは社会保障の充実だそうです(P.19)。政治家は目先の選挙に勝つため、高齢者票の獲得に走ります。本書P.88にも書かれている通り、日本には小さな政府を目指す政党がありません。日本の財政が危機的状況にあり、孫世代に借金を背負わせる構造を知る政治家もいますが、主要政党が打ち出す政策に世代間不平等の是正が出てくることは、ほぼありません。

3) 高齢者の短期的な利益が最優先される

 国立社会保障人口問題研究所によると、2014年度の社会保障給付費は112兆1020億円。そのうち約半分の48.5%を年金、32.4%を医療が占めています。福祉その他には19.1%しか使われていません(*2)。この事実を「高齢者が増えているから仕方ない」と言う人がいます。

 「でも、高齢者は本当に弱者なのか?」という疑問を本書は投げかけています(第2章)。実際はそうではなく、資産を持つ高齢者もいれば、潤沢な企業年金制度により退職後も十分な収入を得ている高齢者もいます。もちろん、一方で生活が困窮している高齢者もいます。

 本来、社会保障はセーフティーネットですから、困っている人が助かるための仕組みであるべき。それが、今は富裕層から貧困層まで、高齢者を一律に弱者とみなして、現役世代から高齢者に所得移転をしているのです。困窮している高齢者を現役世代が支えるのは当然ですが、資産を持つ高齢者にまで現役世代が所得移転をするのは不公平でしょう。