「保育園に預けられないから」「育児と仕事の両立が難しいから」・・・。こうした理由で、出産後に仕事を辞める女性は、今でも後を絶ちません。仕事を続けたとしても、育児と仕事の両立は簡単ではありません。「時短勤務で評価が下がった」というのはよく聞く話です。そうなると、モチベーションを保つのも難しいでしょう。

 こうした中、育児と仕事を両立させるための究極の解決策へ挑戦している企業があります。大手企業の3社に1社が導入しているほど、企業向けソフトウエアでは高いシェアを持つメガベンチャー企業、ワークスアプリケーションズです。

 2016年12月14日、同社は企業内託児スペース「WithKids」をオープンします。これにより“子どもの側にいながら、思いっきり仕事もできる”という、ママ社員の理想的な働き方を目指しています。発案者はなんと牧野正幸CEO。現在は子育て中の女性社員3人がこのプロジェクトのコアメンバーになり、絶賛準備中です。

 驚くのはWithKidsがよくある「業者に委託しての託児スペース」ではなく、保育士もすべて社員として採用し、完全に自社で運営する施設だということ。これは日本の大企業では、あまり例がありません。自社運営の託児スペースを作ることになった経緯や理由について、牧野CEOとコアメンバーにじっくり話を聞きました。

優秀な女性社員に仕事をあきらめてほしくない

「優秀な女性社員に仕事をあきらめてほしくない」という牧野CEO
「優秀な女性社員に仕事をあきらめてほしくない」という牧野CEO

 「優秀な女性社員に仕事をあきらめてほしくないんです」という牧野CEOは、10年以上前から、女性社員の活躍推進のためには柔軟な育児環境の整備が必要と考えてきた。その第一歩として、2004年に始動したのが出産・育児支援制度「ワークスミルククラブ」だ。

 ワークスミルククラブには

・妊娠判明時から、子どもが3歳になるまで取得できる育児休業制度
・子どもが小学校を卒業するまで選択できる短時間勤務制度
・職場復帰時のボーナス制度(15%)
・子どもの病気やケガの看護が必要な場合の特別休暇
・休業中も社内の情報にアクセスできる制度

などの特徴がある。この制度を考えたのは、妊娠を控えた女性社員たち自身だ。今では多くの女性社員たちがワークスミルククラブを活用して産育休をしっかり取り、利用者全員が職場復帰しているという。

働きたいのに働けなくなる女性をゼロにしたい

 「そもそも、ワークスミルククラブがスタートしたのも、出産を機に働きたいのに働けなくなる女性をゼロにしたいという思いが強かったからです」と牧野CEO。

 大規模なソフトウエア開発やコンサルタントのような難度の高い仕事では、個人に高い能力が求められる。同社の優秀な女性社員も志が高く、十分な成果を上げている。ところが出産を機に本人の意思に反して仕事を続けられなくなるケースがある。それはとても残念なことであり、会社にとっても本人とっても大きな損失だ。「このままでいいのか。そんな義憤に駆られました」(牧野CEO)。

 国の制度は変えられなくても、自社の制度なら変えられる。そこで、立ち上げたのがワークスミルククラブ。女性社員自身が制度を作り上げていったのだが、その中で唯一、牧野CEOがアドバイスした制度がある。それは、「復帰時に年俸の15%のボーナスを払う」というもの。これは社員本人よりも「本人以外で復帰に反対する家族や親戚対策」として重視しているという。「“子どもが小さいうちは母親と一緒にいた方が良い”と復帰を懸念する家族や親戚がいる場合、“ボーナスがもらえるから”という説得材料として使えると考えたのです」(牧野CEO)。

 実際、ワークスミルククラブを利用したママ社員の一人はこう語る。「女性にとっては、制度がある/なしで、心のゆとりがまったく異なると思います。要は、きちんと選択肢があるということが重要なんですね。特に職場復帰ボーナスは、周りからも『すごい手厚い良い会社だね。大切にしてくれているんだね』とか『復帰後も良い環境をつくってくれるんだね』と、信頼感につながったのは事実ですし、私自身も安心して働き続ける選択肢が取れたんだと思います」。

子育てしながら、思いっきり仕事にも打ち込める「新しい働き方」を目指す

 一方で、「復帰」しても「働き続ける」ためには、これだけでは足りないと、牧野CEOは考えた。優秀な女性社員が復帰しやすいだけでなく、子育てしながら、思いっきり仕事にも打ち込める「新しい働き方」を実現するために開設を決めたのが、企業内託児スペース「WithKids」である。

 一般的な企業内託児は委託業務になっており、保育内容そのものまでを企業が決めることはない。しかし「WithKids」は完全に自社で開設、運営する託児スペースであり、そのあり方は、働き方そのものをガラリと変える可能性がある

 牧野CEOの発案をきっかけに、社員が有志で集い、プロジェクトが立ち上がった。ではプロジェクトに手を挙げたメンバーはどう考え、取り組んでいるのだろうか。コアメンバーとしてプロジェクトに取り組む谷口裕香さん、牛丸侑香里さん、石関絵里さんに詳しく話を聞いた。