二学期初日。子どもを送り出した後、出勤準備をしながらヨウコはため息をついた。タケシの成績は、今学期は上がるのだろうか……。
息子のタケシは小学校4年生。中学受験を見据えて今年の2月から塾通いを始めた。もともと国語が得意で算数が苦手な傾向にあったが、塾の成果もあって成績は伸びると思っていた。しかし、一学期の成績は横ばいどころか、得意の国語が下がり気味。それだけでなく通信簿の所見に「整理整頓がやや苦手な傾向にある」と書かれていたのが気になった。
ヨウコは昨年購入したばかりのマイホームを見渡した。不動産関連の会社に勤務し、インテリアコーディネーターの資格も持つヨウコは、片付けが得意だ。モノの定位置は常に決めており、テーブルの上には基本的に何も置かないようにしている。家具はソファとダイニングテーブルのみとシンプルにし、代わりに壁紙は明るいペパーミントグリーンを選んで華やかな印象にした。
壁一面にバランスよく並べたアンティークのフォトフレームの中には、家族の写真と共にタケシが1学期の初めにとった100点のテストも飾られている。唯一ごちゃごちゃしているといえるのは夫の趣味の歴史小説やカメラ関連の書籍や、タケシが好きな児童書が並んだ本棚だが、ここも定期的にヨウコがサイズ順に並べ替えるなど整頓をして、見栄えをよくしている。
タケシの自室も同様に、ヨウコが徹底的に片付けて管理している。たまの息抜きに、携帯ゲーム機を1日30分だけヨウコの前でならやってもよいと決めている。低学年のときに遊んでいたオセロなどのボードゲームは、散らかるので処分してしまった。タケシの部屋の壁紙は、気持ちを落ち着かせ、集中力を高める色をイメージしてパステルブルーにした。タケシもとても気に入っている自室だが、そういえば最近勉強に身が入っていないような気がする。
タケシの成績はどうして伸びないのだろう。
これは、小学生の子どもを持つ共働きママの悩みを再現したショートストーリー。日経DUALでは、そんな「悩める家族」を代表して、これまで小学生を中心に8000人以上に勉強を教えてきたカリスマ家庭教師にアドバイスをもらいに行った。
「色々な家を訪れてきましたけれど、この生徒は勉強ができるかな?というのは、家を見ると何となく分かります」と話す西村則康先生。西村先生は30年以上にわたって難関中学・高校受験指導を行い、多くの家庭で勉強を教えてきた。ヨウコの悩みをぶつけてみると、「子どもの成績が伸びないのは、この家に原因があるかもしれません」との回答。いつもすっきりと片付いており、気が散るようなものは置いていないはずの部屋に、一体どんな問題があるというのだろうか。