トランプ支持の背景に「伝統的アメリカ人」の苦境

 トランプ氏は長年、不動産の世界で経営者として手腕を発揮してきた人です。政治家としての力量が未知数であるばかりか、お世辞にもお行儀がいいとは言えない彼が、どうしてここまで支持を広げることができたのでしょう。

 「大前提として、アメリカは日本人には想像もできない移民社会、多民族社会だという事情があります。近年になってヨーロッパ諸国も移民の受け入れを始めましたが、民族の多様性はアメリカに及びません。長年にわたってルーツの異なる人を受け入れてきましたし、マイノリティ(少数民族、少数派)の権利を保護する政策も続けてきました。

 一方で特に保守派である共和党の支持層には、そんな中で育ててきたアメリカ人の美徳が根付いています。勤勉に働き経済的に自立して、公的支援には頼らない。日曜日は教会に行き、ときには慈善活動をする。信じる宗教はどうあれ、そうしたアメリカの美徳に背を向けるような移民なら受け入れたくないという気分が、彼らにはあります。

 そんな下地があるところに襲ってきたのが、リーマンショックに端を発する生活苦です。収入が大幅に減り、場合によっては職を失い、後釜に座るのは賃金の安い移民だったりします。『マイノリティ保護はいい加減にして、こっちにカネを回してほしい』と願う白人をターゲットに、『奪われた仕事を取り戻す』『君たちの税金を安くする』と叫ぶトランプ氏が支持を集めるのは、自然な成り行きかもしれません