皆さん、こんにちは。株式会社子育て支援の代表取締役、熊野英一です。

 前回に引き続き、今回も他者を「勇気づける」ことの素晴らしさについて、私の著作『アドラー 子育て・親育てシリーズ 第1巻 育自の教科書 ~父母が学べば、子どもは伸びる~』(アルテ刊)で触れている内容を参考にしながら考察を進めていきます。

 激しい「ダメ出し」で有名だった舞台演出家、故・蜷川幸雄さんの指導スタイルは、役者の「勇気をくじく」ようで、実際には俳優を志す多くの若者を「勇気づけ」、彼らはその才能を開花させました。どういうことなのでしょうか? 今回は、この事例を用いて「勇気づけ」のコミュニケーションが成立する要件を明らかにしていきます。

「ほめ」はヒトを依存的にさせ、「勇気づけ」はヒトを自立的にさせる

 前回、アドラー心理学でいう「勇気づけ」を説明するために、勇気づけと似て非なる「ほめる」ことの特徴を示しながら、ほめるよりも勇気づけるコミュニケーションのほうが相手の自立を促すのに有効であることを説明しました。ここでは、復習を兼ねて改めて「ほめ」と「勇気づけ」を対比しておきましょう。

 この表にあるように、「ほめ」は常に上から目線のタテの関係を前提に、評価的な態度で接するために相手を依存的にさせる作用があります。これに対して「勇気づけ」は、常にヨコの関係を前提に、共感的な態度で接することで相手が自立的になる効果をもたらすことが知られています。

 この議論を進めるために、ここで「勇気づけ/勇気くじき」の定義を明示しておきましょう。

 勇気づけ: 困難を克服する活力を与えること
 勇気くじき: 困難を克服する活力を奪うこと

 勇気づけの具体的なテクニックとしては、以下が挙げられます。
 (1)感謝を表明すること
 (2)ヨイ出しをすること
 (3)共感ファーストで、聴き上手に徹すること
 (4)相手の進捗、成長を認めること
 (5)失敗を許容すること

“ダメ出し”名人の故・蜷川さんを慕う一流俳優が多いのはなぜか?

 さて、前回のコラムの最後に、今年の5月12日に亡くなった、稀代の名演出家、故・蜷川幸雄さん(享年80歳)の指導方法を例に、勇気づけと勇気くじきを考察してみることを予告していました。ここからは、私のアドラー心理学の師匠であり、拙著『アドラー 子育て・親育てシリーズ第1巻 育自の教科書 ~父母が学べば、子どもは伸びる~』でも【推薦の辞】を寄稿してくださっている、ヒューマン・ギルド代表の岩井俊憲先生がブログ(アドラー心理学による勇気づけ一筋30年 「勇気の伝道師」ヒューマン・ギルド岩井俊憲の公式ブログ)で16回にわたり解説した内容を、先生の許可を得たうえで、若干の私見を加味しつつ、要約してご紹介したいと思います。

 勇気づけのテクニックの一つに、「ヨイ出し」が挙げられることを前節で記しました。

 ヨイ出し: 長所・持ち味・強みに焦点を当てた対応をすること
 ダメ出し: 短所・欠陥・弱みに焦点を当てた対応をすること

 蜷川さんといえば、稽古中に灰皿を俳優に投げつける、というようなエピソードを思い出す方も多いでしょう。まな弟子の一人、女優・寺島しのぶさんの回想です。